第3章 第26話 修羅場呑み会

結論から言うと、スイレンのハイテンションには特に深い意味はなかった。


まるで常に高揚しているようなその様子は、周囲の誰もが裏を探ろうとしても、何も出てこない。


いや、それこそがスイレンという人物の異常さを示しているのかもしれない。


急に冷静になったかと思えば急にふざける。


更には奇声も発する。


それがスイレンと言う人間なのだ。



「うぉ〜つかれ〜い」と言って、スイレンは手に持ったストゼロを一気に開ける。


そして、無駄に華やかな身振りでイキーパ(チーム)の面々に向き直り、カルを改めて紹介し始めた。


「ま、たぶんみんな知ってると思うねんけど、コイツはカル。光の魔導士。でも、こいつはすごく真面目でええ奴やねんよ。

天才的な魔術の才能を持ちながらも、人一倍努力して、困難に立ち向かっていく根性のあるヤツだ。


なんで知ってるかって?俺が光の魔導士だったころの弟子だからだよ」



関西弁と標準語交じりのスイレンの言葉が響いたその瞬間、場の空気が凍りついた。



カルは目を丸くして、「え?そんな大事なこと、ここで言う?」と戸惑いながら言葉を絞り出す。


だが、その言葉の裏には、もっと深い衝撃が隠されていた。


スイレンがイェシカであること、それがスイレン本人の口から言葉として発せられたのだ。



「ちょっと、光の魔導士やったって、どういうこと?」サアラが冷静に、しかし鋭く突っ込んできた。




スイレンは気にした様子もなく答える。


「あれ?知らんかった?俺は光の魔導士を追放されたんよ。怨獣化の研究を危険視されてな。

それに、闇の魔導士の半分ぐらいは元光の魔導士やけど、なあ、レイ?」


レイは黙ってうなずき、軽く「私もそうやで」とだけ言った。


「光の魔導士から闇に転向したヤツらって、ほとんどが日本魔導士連盟のやり方に疑問を抱いてたやつなんよ。

俺がイェシカとしてカルを指導してた時は、カルにはそのへんの話は言ってなかったけどな」

スイレンがその言葉を続ける。


カルはその言葉を噛み締める。


確かに、カル自身も日本魔導士連盟のやり方に疑問を感じていた。


光の魔導士たちが犯す過剰な暴力やパワハラ、怨獣退治のためなら通行人の犠牲も厭わない姿勢、さらには隠蔽される数々の犯罪。


それらは、カルにとって許しがたいものであり、その不正義がもたらす痛みが心に残っていた。




「俺ら、光の魔導士出身のヤツらは、元々は高収入バイトにつられてきたようなヤツがほとんどやわ。

でも、闇に転向したヤツらは、もうそこに留まらずに、使命感を持ってる。

それが、魔術を正しい道に使うこと。

表面上の正義だけ語って街を破壊してもなんとも思わない光の魔導士達とは、そこがちゃうんどすわ」とスイレンは力強く言った。




その言葉に、セツノ、サアラ、レイ、カナタも「そうやそうや」と同調する。


皆が、スイレンの言葉に共感し、改めてその思想に賛同しているのがわかる。


そして、スイレンは突然、顔を真剣にし、真剣な眼差しでカルを見つめながら言った。


「カル、お前も闇に転向しなよ。俺と一緒に来い。

光が正義で、闇が悪だなんて、そんな単純な話じゃない。

ホンマに世の中にとって良いことをやりたいねん」


その言葉に、カルはしばらく黙った。


そして、ようやく口を開く。


「じゃあ、なんで怨獣の実験なんてするんですか?

なんで黒羽りりぃさんの気持ちを踏みにじるんですか?

もしあなたが本当にイェシ姉ならば、

なんであの時、僕の前から黙って消えたんですか?

なんでなんで、僕以外を...」


カルの言葉に、空気が一瞬で重く、静まり返る。


その痛烈な問いが、スイレンの心に鋭く突き刺さった。


その場にいたメンバー、セツノ、サアラ、レイ、カナタの4人は、修羅場のような気まずさに耐えかね、顔を見合わせることなく立ち上がった。


「気まずいから帰るわ。今日の計画も無事成功したわけやし」と口々に言いながら、彼らはそそくさとその場を去った。



残ったのはカルとスイレンだけ。


二人だけの沈黙が、ますます深く、重く、広がっていった。

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