第3章 第28話 狼王
スイレンはその言葉を発した後、目を細め、静かに口元に微笑みを浮かべた。
「別にどちらでも良い。
俺はお前とこうしてゆっくり話すことが出来て、
俺がイェシカだと明かすことが出来て、
それだけで嬉しいよ。
お前が俺にそこまで感情をぶつけてくれることもね。」
スイレンの声は、どこか穏やかでありながらも、どこか不気味な力を秘めているように響いた。
その言葉にカルの胸の中で湧き上がる感情が抑えきれなくなる。
怒り、疑念、そして悲しみが絡み合い、彼の言葉は強く、断固として発せられた。
「だがそれはそれ、これはこれだ。」
スイレンは続けて言う。
スイレンの表情が一変し、冷徹な瞳に戻る。
「仮にミーッサオン(ミッション)なんだとしたら、俺はお前を止めなきゃいけない。
つまり、戦いを意味する。
もう一度言う。お前も闇陣営に来い。
お前の理想もここにあるはずだ。」
その言葉を聞いたカルは、一瞬息を呑んだ。
胸の中で押し寄せる葛藤に耐えきれず、やがて力強く声を上げた。
「止めるのは僕の方ですよ!!」
カルの言葉は、彼の内心の決意を込めたものだった。
しかし、それ以外を言葉にすることができなかった。
カルの心に渦巻く色々な感情を上手く表現できなかったからだ。
スイレンは冷たく微笑むと、しばらく沈黙が続いた。
彼の瞳はどこか遠くを見つめ、ゆっくりと次の言葉を口にした。
「俺を止めるだって?
俺はただ怨獣(おんじゅう)を再利用してるだけだ。別に人や街を襲ってるわけじゃない。
前科者すら混じってる光の魔導士達と違ってね。」
その言葉に、カルの心はますます揺れ動く。
スイレンの言うことは一見理にかなっている。
しかしその背後に危険な意図が潜んでいる予感がしてカルは圧倒される。
「俺たちが闇の魔導士と名乗るから悪いことをしてる様に見えてるだけだ。
別に闇イコール悪ではないよ。」
スイレンはさらに問いかける。
「カル。それともここで戦いながら語り合うかい?」
その一言に、カルの心は一気に高鳴った。
スイレンの言葉は挑戦的であり、同時に彼を試すような響きがあった。
そして、スイレンがその言葉を終わらせると、彼の身体が不穏な光を放ち始めた。
その輝きは次第に膨れ上がり、まるで神秘的なベールに包まれるような感覚を与える。
魔法美少年スイレンの姿をまとう神秘のベールは、霧のように揺らめき、やがてそのベールがガラスのように割れた。
「ガシャァン」
その瞬間、カルの目の前に現れたのは、初めてスイレンと出会った時に対峙したShade Wolfの王個体- Rei(ライ)そのものであった。
「これが…?」カルの声は震えていた。
その狼の姿こそ、スイレンが今、新たに得た力の象徴だった。
「これがLobo Sombra(ロ゜ーブゥ・ソオンブラ)の王を取り込んだボクの新たな力、『怨獣モード狼(ロ゜ーブゥ)』だよ。」
スイレンが静かに呟くと、その狼の姿が一層威圧的な気配を放ちながら、カルに向かって迫ってきた。
それにしてもスイレンは口調がコロコロ変わる。
その巨大な狼の目は赤く光り、牙をむき出しにして唸り声を上げる。
そのエネルギーは凄まじく、周囲の空気さえも歪ませるような圧倒的な力が感じられた。
カルはその圧力に体を震わせながら、必死で踏みとどまる。
「スイレン…いや、イェシ姉!」
カルの心には戦う覚悟が満ちていたが、この戦いがどれほど危険であるか、同時にその恐怖も感じていた。
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