第3章 第21話 実験準備

一方そのころ、全員Bランク以上の精鋭であるスイレンのイキーパ(チーム)は、静かなエレベーターの音を背に、28階に到着した。


ドアが静かに開くと、無人のフロアが広がり、異常な静けさが辺りを支配していた。


この階はカルの張り込み対象となった無人フロアリストに名を連ねているが、カルとちょうど入れ替わる形でスイレンたちがその場所に足を踏み入れた。


スイレンが最初に足を踏み入れると、冷たい空気が広がる。


この場所にはどこか不穏な静けさが漂っていたが、それがまた彼の冷徹な心を昂ぶらせる。


彼の可愛らしい魔法美少年の姿に似合わず、目には冷徹な意志が宿っている。


その手が、静かに微かに震えながらも、実験が始まる合図となった。


「準備はできているな?」スイレンが低い声で言うと、セツノが一歩踏み出し、無言で頷いた。


セツノもまた魔法美少年である。セツノの美少年らしい姿は、炎を操る力強さを想像させる。


その眼差しは、冷静だが、心の奥に秘めた情熱が隠しきれない。


「問題ありません。スイレンさん」

カナタがその低い声で答え、目の前の部屋を見回す。


カナタの威厳ある佇まいは、即座に状況を把握し、周囲の安全を確認していた。


土を操る彼にとって、この無人フロアも戦場となる準備が整っている。


「私は後ろを固める。何かあったら言って。」


レイが、エネルギッシュに言っては周囲を見渡す。


彼女の明るい性格が、無機質な空間にも少しの温かみを加えているが、その眼差しには鋭い警戒心が隠れていた。


そして最後に、サアラが静かに部屋に入る。


彼女の氷のように冷たい美しさが、その場の緊張感をさらに高める。


青い髪と透き通る肌が、周囲の冷気を吸い込んでいるかのようだ。


無言でスイレンに従い、彼女は準備を整えていく。


スイレンが足を踏み出し、中央に配置された箱を指差す。


「これがRei(ライ)だ。今日の実験の対象だ。」


箱の中には、Lobo Sombra(ロ゜ーブゥ・ソオンブラ)、光の魔導士側の呼び方でいえばShade Wolfの王個体、Reiが静かに横たわっている。


その目はすでに閉じており、まるで眠っているように見えるが、その体からは強大な魔力がほとばしり、空気が震えている。


「さあ、始めよう。」


スイレンは静かに言い、周囲を見渡した。


仲間たちは一言も言わず、しかしそれぞれの目には覚悟が浮かんでいる。


セツノが最初に近づき、その手で箱を開ける。


瞬間、Reiの強大な魔力が一気に放たれ、部屋の空気が一変する。


スイレンの冷静な指示で、仲間たちはそれぞれの場所に位置を取る。


彼らは順番にLobo Sombraの王を捕食し、怨獣化する計画だ。


まずは5人で輪になり、Reiの入った箱を取り囲む。


そしてスイレンは呼びかける


「Tu Grande Rei das Trevas. Perdoai-nos para que possamos comer carne de o rei de lobos e fazer deles a nossa própria carne e sangue.(闇の大王よ。 私たちが狼の王の肉を食べて自分たちの血肉とすることを赦し給え。)」と


そして

「一人ずつ。」

スイレンが言うと、

セツノが静かに一歩踏み出し、Reiに手を伸ばす。


その瞳に燃え上がる炎が見え、セツノは素早くその一部を捕食する。


炎の魔法が一瞬で全身を包み込み、彼の体は強烈なエネルギーを感じながら次第に変化を始める。


「次だ。」スイレンが冷徹に指示を出す。


サアラが無言で近づき、彼女の氷の手がReiに触れると、氷のような冷気が辺りに広がり、彼女はすぐに次の一部を捕食する。


その目に深い意志が宿り、瞬く間に体に氷の魔力が満ちていく。


続いて、レイとカナタがそれぞれ順番に捕食を始める。


レイは雷のような瞬発力で素早く動き、カナタは土の力を使ってその場を固め、他の者が捕食するための安全を確保していく。


最後に、スイレンがReiの最も強力な部分を捕食する。


その一瞬、部屋全体が振動し、スイレンの体に暴力的なエネルギーが流れ込む。


怨獣化の準備が整い、すべてのメンバーの体内に強大な力が宿るのが感じられる。


「これで全員、怨獣化できる。」


スイレンは満足げに言い、しかしその目は冷徹に輝いている。


「みんなが等しく強くなること、そうすれば争いは無くなる。」


すでに理性を失う寸前の変化が体中に広がり、全員がその異変を感じていた。


しかし、彼らはこの実験において、互いに抑制し合うことで、無事に任務を遂行することができるはずだ。


ただ、その時、スイレンの目の前のモニターに、わずかに動く影が映る。


まだ、誰も気づいていないが、カルの影がすぐ近くに迫っていた。



---


カルの存在に気づくことなく、実験が続行される中、次第に不穏な空気が広がっていく。


スイレンイキーパ(スイレンのチーム)はそのまま怨獣化の力を得たが、同時に外部からの干渉を受けることになるだろう。

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