第3章 第20話 南港での張り込み

休日明けの朝、カルはいつものように大阪府箕面市(おおさかふ・みのおし)にある日本魔導士連盟大阪支部に出勤した。


平穏な朝を迎えるはずだった彼の端末が、不意に鳴り響いた。


東田からもらったミッション専用の特別な端末だ


画面には「東田(ひがしだ)」の名前が表示されている。


受話ボタンを押すと、東田の落ち着いた声が響いた。


「カルさん、おはようございます。実は緊急の依頼があります。いますぐ大阪南港(おおさか・なんこう)のWTC(ワールドトレードセンター)付近に行き、張り込みを行ってください。」


不意を突かれたカルが困惑しつつ問い返す間もなく、東田は続けた。


「闇の魔導士スイレンたちが、怨獣(おんじゅう)を使った実験を行うとの情報が入りました。

額田(ぬかだ)さんたちにも連絡しておきますが、まずはカルさんが現場を確認してください。

迅速な対応をお願いします。

大阪メトロ中央線のコスモスクエア駅で下車すると楽だと思います。」


その言葉に、カルは緊張感を覚えた。


スイレン――かつての憧れイェシカと同一人物だと黒羽は言っていたがそれは本当なのか?


それが本当ならなぜ闇落ちしたのか?


僕以外の女を抱いたのは本当なのか?


だが彼はその名前に動揺する素振りを見せることなく、指示を受け入れる。


「了解しました。すぐに向かいます。」



---




カルは支部を飛び出し、箕面萱野(みのおかやの)駅から北大阪急行(きたおおさかきゅうこう)に乗り込んだ。


この北大阪急行というのはメトロ御堂筋線(みどうすじせん)と直通運転をしているので、1本で梅田やミナミ、淀屋橋(よどやばし)などの都心部に行けてしまうのだ。


通勤時間帯の混雑をかき分けながら、頭の中ではスイレンに関する情報が巡る。


「怨獣の実験……そんな危険なことを、なぜ……」


不安を抱えつつも、彼は冷静さを保とうとしていた。


メトロ御堂筋線(みどうすじせん)からメトロ中央線に乗り換え、コスモスクエア駅へと向かう道中、東田からの詳細な連絡を端末で確認する。



> 任務概要


現場:大阪南港ワールドトレードセンター周辺。交通費はコスモスクエア駅下車として算出および支給。


目的:闇の魔導士スイレンの動向を監視し、怨獣実験の証拠を掴む


注意点:無闇な接触を避け、観察を最優先とする






---



コスモスクエア駅を降り、南港の風が彼を迎えた。


カルは深呼吸をし、自分自身に言い聞かせる。


「任務に集中だ。余計な感情を捨てて、僕は魔導士としてここにいるんだ。」


スイレンと再び顔を合わせるかもしれないという予感が胸を締め付ける。

しかし、彼は使命感を胸に、静かにワールドトレードセンターへと向かうのであった。


次なる展開の中で、カルは自らの力と心の葛藤を試されることになる――。





大阪南港のワールドトレードセンターに到着したカルは、その異様な雰囲気に目を細めた。


「地上55階、地下3階建て……なんでこんな場所に?」


大阪の中心部から外れたここ南港(なんこう)の地にそびえ立つ超高層ビル。

外観は堂々としているが、内側はまるでゴーストタウンのように閑散としている。

エントランスを歩くだけで、その静寂が耳に痛いほどだった。


「本当に全フロア稼働してるのか?」


カルはそんな疑問を抱きながらも、慎重に行動することに決めた。

魔法美少年の姿は目立ちすぎると判断し、彼は魔法を解いて普通の青年の姿に戻る。



---


張り込みといっても、カルは全くの素人だった。


具体的にどこに目を光らせればよいのか分からない。


だが、「スイレンたちは目立たない場所を選ぶだろう」という直感を頼りに、彼はある作業を開始した。


エレベーターに乗り込み、各フロアに順番に降り立っては中を確認して回る。


人の気配があるフロアもあれば、完全に放置されているようなフロアもあった。



---


4時間に及ぶ作業の成果


このあまりにも魔導士に似つかわしくない単純だが骨の折れる作業は、カルの体力と思考力を徐々に奪っていった。


しかし、焦りは禁物だった。


「怨獣実験なんて、騒ぎになったら大阪支部全体の問題になる……東田さんとの約束を守らなきゃいけないし慎重にやらなきゃ。」


4時間後、カルはついに無人フロアのリストを作成することに成功した。


無人フロア一覧:

13階、20階、28階、35階、47階



「おそらく、スイレンたちはこれらの無人フロアのどこかで怨獣実験の準備を進めるはずだ。」


リストを見つめるカルの顔には、達成感よりもこれから始まるであろう危険な任務への緊張が浮かんでいた。


「次は、この中のどこかで待ち伏せするしかない……。」



---


カルはリストを元に行動を決めるため、一旦エレベーターの隅に身を潜めた。


スイレンたちの動きを探るには、次の一手を慎重に選ばなければならない。


彼の胸の中では、焦りとともにスイレンへの複雑な想いが渦巻いていた。


「怨獣の実験なんて、イェシ姉……あなたは本当にそこまで闇に堕ちたのか?

そもそもあなたは本当に闇の魔導士スイレンなんですか?」


カルは深く息を吸い込み、次なる行動に備えるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る