第3章 第17話 退却の黒羽

黒羽りりぃを含む闇の魔導士たちは、東田(ひがしだ)の圧倒的な存在感と実力の前に震え上がっていた。


恐怖に満ちたうめき声だけが、静まり返った公園に響く。


その中心で、東田は余裕たっぷりの微笑を浮かべながら、ゆっくりと彼らに歩み寄る。


その足取りには威圧感があるものの、どこか優雅さも感じられる。


「まあ、今日のところは見逃して差し上げましょう。」


東田の言葉は穏やかだが、その意味するところは冷酷だった。


「大阪は私ではなく額田(ぬかだ)さんの管轄ですしねえ。

スイレンさんによろしくお伝えください――『東田(ひがしだ)が来たよ』と。」





黒羽りりぃは悔しさに震えながら、歯を食いしばる。


「クソッ!クソッ!」


その叫び声には、悔恨と憎しみが交じり合っている。


彼女は仲間と共にその場から退却するしかなかった。


自分たちでは太刀打ちできない相手が目の前に現れ、さらにはその圧倒的な力を見せつけられたのだ。




心を蝕む感情の嵐


退却する道中、黒羽りりぃの心の中ではさまざまな感情が渦巻いていた。


――スイレンの想い人が自分ではなく、カルであることを知ってしまった嫉妬。


――そのカルが、本来なら黒羽の能力になるはずだったカプリコーニュの力を奪い怨獣化に成功し、スイレンに一歩近づいたことへの羨望。


――怨獣カプリコーニュとして見せたカルの圧倒的な力への恐怖。


――それそらをも一瞬で鎮めてしまった東田という伝説の魔導士の降臨への戦慄。


これらすべてが複雑に絡み合い、黒羽りりぃの心を深く蝕んでいく。


「にいに……」

彼女は呟く。その声は震えていた。


「にいに、にいに! うちはどうすればええんさ……!」


彼女の目には涙が浮かんでいた。


もうこの世には居ない兄に助けを求める意味も彼女自身にもわからない。


ただ、この世界の中で、自分がどう生きていけばいいのか。進むべき道も、守るべき誇りも、すべてが見えなくなっていた。


闇の中で、黒羽りりぃは彷徨い続ける――。

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