第3章 第18話 一方的な協力体制

薄暗い空間の中、カルはゆっくりと目を覚ました。


目を開けると、見知らぬ場所の天井が視界に入り、自分の両手両足が拘束されているのに気づく。


「ここは……?」


混乱しながら辺りを見回すと、視線の先に立つ一人の男が目に入った。


その男はどこか白神に似た鋭い目つきと整った顔立ちをしている。

彼は控えめな微笑を浮かべながら、静かにカルに語りかけた。


「お目覚めですか、カルさん。はじめまして。」


男は一礼しながら名乗る。


「私は東京三鷹(とうきょう・みたか)支部の長、東田(ひがしだ)と申します。」


カルは警戒心を露わにしながら問い返す。


「東田……?あの伝説の魔導士と名高い??僕を拘束して、何をするつもりなんですか?」


東田はカルの警戒を楽しむかのように微笑を崩さず、話を進めた。


「さて、カルさん。あなた、一体どうやって怨獣になられたのですか?」


カルは動揺しつつも、率直に答えた。


「怒りと悲しみに支配されたら……気づいたらあんな姿に……。」


東田は興味深げに頷く。


「なるほどなるほど。確かに、それが怨獣化のきっかけとなる典型的なパターンですね。

しかし、ご存じでしたか?日本魔導士連盟で最も禁忌とされていること、それは魔導士が怨獣になることなのです。」


カルの眉が動き、緊張が走る。東田はなおも話を続ける。


「かつて、一人の魔導士が怨獣化の研究を秘密裏に行い、日本魔導士連盟大阪支部の上層部――つまり額田(ぬかだ)さんたちに追放されてしまいました。

聖帝様の怒りに触れてしまった、と言うことらしいです」


聖帝の怒り???聖帝って1000年前の魔導士なのに関係なくないか?とカルは一瞬思った。


そしてカルは反射的に問いかける。


「それなら僕も追放されるんですか?」


だが、東田は笑みを深め、穏やかな口調で答える。


「いえいえ、ご安心を。私は東京支部の人間ですから、大阪支部のことには手を出しません。

つまり、額田(ぬかだ)さんたちに報告するつもりもありません。」


カルは少し驚きつつも、東田の真意を掴みかねていた。


「むしろ私は、怨獣化の力を戦力として有効活用すべきだと考えている人間です。

ですから、こうしましょう――」


東田は一拍置いてから告げる。


「あなたが怨獣化の能力を得たことは、私たちだけの秘密にしましょう。そして、その代わりに――」


東田の言葉に、カルは緊張を覚えたまま耳を傾ける。


「闇の魔導士会『ブルーショシュ・ダーシュ・トゥリェーヴァシュ』関連の事件を、あなたの特別任務として扱うよう大阪の上層部に伝えておきます。

ただし、このことは絶対に口外しないでくださいね。」


カルはしばらく迷いの表情を浮かべていたが、東田の鋭い視線に気圧され、仕方なく呟いた。

「……わかりました。」


東田は満足げに頷き、懐から特別な端末を取り出すと、カルの手に押し付けた。


「この端末をお持ちください。

闇の魔導士会関連の事件の際はこちらにご連絡を。

また、もし日本魔導士連盟内であなたの怨獣化や闇の魔導士との戦いを目撃した者がいれば、その人物についても詳細を教えてください。

場合によってはその方にも隠密部隊に転属してもらう事になるかもしれませんしねえ。

まあ部隊と言っても今はカルさんのみですが」


カルは端末を受け取りながら、東田の底知れない意図を感じ取り、不安な思いを拭えないままでいた。



こうして、東田の巧妙な話術と圧力により、カルは事実上、大阪支部にいながら東京三鷹支部の管理下に置かれることとなった。


だが、それがカルにとって救いになるのか、さらなる苦難の始まりなのか――その答えを知る者はまだいなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る