第1章 第3話 詠唱練習

「カル、今日は詠唱の練習をしていくよーん。」


イェシカがいつも通りのラフな口調でだけども真剣な眼差しで言った。


イェシカは魔導士でありながら、教えることにも情熱を注いでいる。

彼女(彼?)の言葉は、僕の心に少しの期待をもたらした。


「魔法は古代から存在するんだけど、本来の古代言語での名前は既に失われてしまって知ってる人がいないんよ。」


イェシカは、ゆっくりと説明を続ける。


「今の魔導士たちは、新しく英語で名前をつけ直して詠唱してんねん。

でも、日本魔導士は特に英語の発音が悪すぎるんよね。」


彼女の言葉に、僕は思わず身を乗り出した。「発音が悪いとどうなるんですか?」


「発音がズレると、魔力が落ちてまうんよ。

英語の時点で、本来の言語での詠唱に比べて質がだいぶ落ちるけど、

その上さらに発音が悪いと、効果が更に半減すんねん。

出力が落ちるってとこかな」


彼女の言葉は、発音の重要性を感じさせるもので、真剣に耳を傾けた。


「じゃあ、どうすればいいんですか?ボク英語苦手なんですよ」


「そのために、俺が考えた「イェシカ式カタカナ英語」を教えるね。

例えば、基礎的な防御魔法の『The shield』。多くの日本魔導士はこれを『ザシールド(Zashiirudo)』と発音するけど、これだと正しい英語の発音からズレが大きくなるの。」


「なるほど……だから、魔力が集めにくくなるんですね。」


「その通り。

魔法盾の防御力や守備範囲が弱まったり狭まったりすることになるのね。」


イェシカは指を立て、強調する。


「だから、正しく発音もしくは正しくなくとも極力近い発音をする必要があんのよ。」


彼女は、気を引き締めるように一息入れると、口を開いた。


「じゃあ、今から正しい発音を示すから、聞いててね。

ただしイギリス発音やアメリカ発音は英語が得意な人じゃないといきなりは難しいと思うから、

より日本人が発音しやすくてかつ正しい発音に比較的近いジャマイカ発音でいくね。」


彼女(彼?)は、ゆっくりとした口調で言った。


「ザシールド、ではなく、ダシィェーウドゥ。」


その言葉は、まるで音楽のように流れるように聞こえた。

発音は独特で、最初は少しとっつきにくかったが、聴けば聴くほど耳に残った。


「わかったかい?」イェシカが僕を見つめる。「今から俺が発音したのを真似してみて。」


「はい、わかりました!」僕は意を決して言った。「ダシィェーウドゥ!」


「んー、悪くないけど、もう少し練習が必要やね。1回紙にカタカナで書くからそれを読んでもう一度、ゆっくり言ってみて。」


そう言うとイェシカはノートをおもむろに取り出してシャーペンでカタカナで「ダシィェーウドゥ」と書いた。



そこは魔法つかわないんだ……笑




「ダ……ダシィ……ェーウ……ドゥ。」


イェシカは頷き、再度言う。


「そうそう、今度はもっとスムーズに。意識して、口を開いて。」


「ダシィェーウドゥ!」


彼女は微笑んで、

「いい感じやね。発音は魔法にとってとても大事なことなんよ。

軽視する奴がほとんどやけどさ。

でもこれができたら魔力が集まりやすくなるねんよ。」と続けた。

彼女の言葉に、少し自信を持つことができた。


「次に、他の魔法も練習してみましょう。

例えば、『Fireball』という魔法は、

一般的には『ファイアボール』と発音されるけれど、これもズレが大きい。」


「じゃあ、どう発音すればいいんですか?」


「正しくは、『ファ↑イアボー』だと覚えておいて。

これが『Fireball』の発音に近い。」

イェシカは、再び実演して見せる。「ファ↑イアボー。」


その発音を耳にした瞬間、僕の心は興奮で満たされた。

なんて自然で、力強い響きなんだろう。


「さあ、紙に書くからそれを読みながらもう一度言ってみて。」


イェシカは紙に書いたファ↑イアボー!の文字を見せてきた。


「ファ↑イアボー!」


「いいね、その調子!次は……」イェシカは次々と魔法の名前を挙げていった。


僕は一つ一つの発音に集中し、全力で取り組む。イェシカの真剣な姿勢に、僕も次第に熱が入っていく。


訓練は続き、時間が経つのも忘れるほど夢中になっていた。 

発音練習は、単なる音の再現ではなく、魔法の力を引き出すための重要なステップだと実感できた。


魔法の発音がクリアになるにつれて、自分の中に力が宿っていくのを感じた。


「発音は魔力の源泉。これをマスターすることで、カルは本当の魔導士になれるよ。

復習用に基礎的な詠唱とイェシカ式カタカナ発音の単語リスト作っとくから明日までに7周しといて。」


イェシカの言葉が心に響く。彼女の教えを受けながら、僕は自分の可能性を感じていた。


魔法の世界への扉が開かれ、僕の新しい冒険が始まるのだ。

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