第3章 第10話 謎の着信
Pale Raven(ペーイオ・レーイヴン)の王を取り逃がし、闇の魔導士スイレンに敗北した「出町柳(でまちやなぎ)の戦い」から数日。
カル、白神、そして闇の魔導士であるスイレンと黒羽りりぃ――誰一人として、王の捕縛に成功することはなかった。
理由は単純にして明白。空を飛べる魔導士など1人もいないからだ。
魔法使いとはみんな自由に空を飛ぶイメージがあるかもしれないが、実際にはそんな華やかな技はない。
もし自由に空を飛ぶ事が出来る魔導士がいるとすれば、それは翼を持つ魔導士か3次元世界の理とは大きく離れたホモ・サピエンスとは別の存在が「わざわざ人間の魔導士の姿を取る」とかでしかあり得ないだろう。
カルはその結果に唇を噛み締めながらも、自身の日常に戻り、怨獣退治に奔走する日々を送る。
だが、その忙しさの中でも、カルの心の奥には奇妙な感情が渦巻いていた。
「どうしてスイレンに懐かしさを覚えるんだろう……?」
敵であるはずのスイレン。
その笑顔や語り口調が、どうにも過去の記憶と重なり合うような感覚。
それが一体何なのか、カル自身にも答えは見つからなかった。
倉庫で仕分け作業をしていた昼下がり、カルのポケットに収められたスマートフォンが震えた。
画面に表示されたのは、見覚えのない番号。
「……誰だ?」
一瞬、ためらいはあったものの、カルは電話を取った。
「もしもし……」
その瞬間、耳元から聞こえてきたのは、冷たさと優しさを併せ持つ、落ち着いた女性の声だった。
「カルさんですよね?あなたが知りたいだろう秘密を教えてあげる。」
「えっ?誰ですか、あなたは?」カルは警戒心を強めながらも問い返す。
しかし、声の主は名乗ることなく続ける。
「河内長野(かわちながの)に来て。そこで話しましょう。」
それだけを言い残すと、電話は一方的に切られてしまった。
カルはスマホを見つめ、迷う間もなくその場を飛び出した。
周囲の仕事仲間たちが驚きの声を上げるが、それを気にも留めない。
「すみません、急用です!」
そう叫び、荷物を中途半端に置き去りにしたまま、駅へと向かう。
胸の内に募るのは、知らない電話の主が持つ「秘密」への興味と、どこか導かれるような直感だった。
箕面萱野(みのおかやの)で電車に乗り、向かう先は河内長野(かわちながの)――。大阪の北部から南部までの大移動だ。
京都や神戸に行くよりも下手したら手間がかかるかもしれない移動。
謎めいた声が導くその場所に、カルの新たな運命が待ち受けているのかもしれない。
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