第3章 第13話 不意の問いかけ
黒羽りりぃは氷を纏った熱気の魔法で猛攻を仕掛けていた。
彼女の手のひらから放たれる熱気に満ちた閃光が空気を歪ませ、周囲に熱と冷気の混在する奇妙な波動を生み出している。
「Tempestade de Gelo!」
黒羽がポルトガル語で技名を叫ぶと、巨大な氷の竜巻がカルに襲いかかった。
カルはそれを迎え撃つように両手を広げ、火と風の魔力を高める。
拳を握りしめ、熱風を伴う蹴りを放ちながら、彼も叫ぶ。
「Blazing Gale Strike!(ブレ゜ーイズィン・ゲーイウ・スチョラアアイク)」
拳と蹴りが生み出す灼熱の旋風が黒羽の氷の竜巻に衝突し、激しい衝撃波が異空間を震わせた。
技の応酬は長引き、双方が互いの一手を凌ぎ続ける中、カルは次第に疲労の色を見せ始めていた。
しばらく激しい戦闘が続いた後、不意に黒羽りりぃが魔力を抑え、ぼそっと呟くように尋ねた。
「ねえ、カルさん。……イェシカって知ってる?」
その名前を聞いた瞬間、カルの動きが止まる。
瞳を見開き、額にじわりと冷たい汗が浮かぶ。
「イェ……シカ……?」カルは動揺を隠せなかった。
闇の魔導士である黒羽の口から、自分の師匠であり、失踪したイェシカの名前が出てくるとは思いもしなかったのだ。
そして、カルにとってイェシカは師匠であるだけでなく、密かに想いを寄せていた存在でもあった。
黒羽はそんなカルの様子をじっと見つめ、小さくため息をつく。
「やっぱり、そういうことか……。」
彼女のつぶやきは意味深で、しかし感情を抑えたものだった。
カルは混乱し、言葉を絞り出そうとするが、その先に続けるべき言葉を見つけられないまま、ただ黒羽を見つめるだけだった。
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黒羽りりぃの問いかけの真意は不明であり、彼女の視線には何かを試すような色があった。
(どうして、イェシ姉の名前をこの人が……?)
カルの心の中には疑念と不安、そしてわずかな期待が交錯していた。
戦いは中断したまま、両者の間に張り詰めた空気が漂う。その場に新たな波乱が起ころうとしているようだった――。
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