第2章 第9話 Shade Wolf(シェーイドゥ・ウォーウフ)

箕面(みのお)市の魔導士連盟支部が慌ただしく動き始めたのは昼過ぎのことだった。


「西宮(にしのみや)にShade Wolf(シェーイドゥ・ウォーウフ)が大量発生、応援要請が来ている!」


西宮(にしのみや)市、それは兵庫県東部の街。

大阪市と神戸市のちょうど真ん中あたりに位置する市だ。


Sランク魔導士たちが全員休みの中、連盟の緊急連絡が響き渡る。


即座に指揮を執るべきSランクがいない以上、現場の最高ランクであるAランク魔導士3名――カル、沢渡蓮司(さわたりれんじ)、古川正吾(ふるかわしょうご)が臨時の指揮を任されることとなった。


「俺たちが指揮? 冗談じゃないだろう、Sランクの連中がいないのに…。」


古川は軽く笑いながらも、普段とは違う緊張感を隠せない。


古川はスマホを操作しながら冷静に状況を確認している。

「Shade Wolf(シェーイドゥ・ウォーウフ)か…俺がハッキングして盗み出した怨獣のプロファイルリストによるととても厄介だな。群れで襲ってくるタイプだと、Bランク未満じゃ瞬殺されるかもしれない。だが報酬は弾みそうだな」


カルは二人のやり取りを聞きつつ、トラックに乗り込む準備を進める。

「考える暇はないですよ。とにかく現場に向かって対応するしかない。」




支部に集められたのはカルをはじめとした隊長格のAランク魔導士3名、Bランクの副隊長魔導士4名、Cランク魔導士8名、Dランク魔導士10名。


計25名を、沢渡が(さわたり)運転する大型トラックで西宮北口に運ぶことになった。


「おい、何で俺が運転なんだよ。」

文句を言いつつもハンドルを握る沢渡。カルと古川は助手席に座り、路上から見える景色を無言で眺めている。あとのメンバーは後部のコンテナの中だ。


カルは落ち着かない様子で言葉を発する。

「指揮って、一体どこまでやればええんやろう…。現場に着いたらどう動くか、全然イメージが湧かない。」


古川は肩をすくめた。

「普段Sランクの奴らが適当に号令かけてるだけだ。俺たちも適当にやればそれで十分だろう。」


「そそ。ノリよノリ」と沢渡は答える。


「適当で済みますか!」

カルは思わず声を荒げる。

「Bランク以下の魔導士たちの命は、ボクたちにかかってるんですよ。適当なんて許されるはずがないですよ!」


その言葉に沢渡が軽く笑いながらミラー越しに視線を送った。

「カルさあ、そんなに堅く考えんなや。現場で何が起きるかなんて、結局その時にならな分からへんねんから。」


古川も小さく笑った。

「まぁ、カルが緊張しすぎてコケなきゃいいけどなwそれかこの前白神(しらがみ)さんとバトったみたいに突然ブチ切れたりしなければw」


カルは二人の態度に苛立ちを覚えながらも、言い返すことなく窓の外に目を向けた。


箕面から西宮北口(にしのみや・きたぐち)までの道のりは、40分という短い時間であるはずなのに、カルにとってはやけに長く感じられた。





西宮北口(にしのみや・きたぐち)の現場に到着すると、そこはすでに地獄のような光景だった。

駅周辺に広がる商業エリアに、黒い霧のようなものが漂い、群れをなす狼の形をした怨獣---Shade Wolfがあちこちで吠え声を上げている。


通行人は避難しているものの、一部の建物には破壊の爪痕が残されていた。


沢渡はトラックを停め、荷台から飛び降りると、部隊に向かって声を上げた。


「おおい、全員集合!これから俺らが指揮を取るからよく聞いとけよ〜!BランクはCとDをしっかりサポートしてな!頼むで!」


古川も冷静な声で続けた。

「Shade Wolfは頭数を削ることが第一。まとまって動けば押し込めるが、分散すると囲まれて終わりだ。また運良くあいつらの「王」を倒せればそれだけであいつらは逃げていく。」


さすが古川だ。ハッキングして盗み出した怨獣プロファイルリストの情報は役に立つだろう。


なぜだが、どう言う戦い方をするべきなのかは上層部は一切教えてくれないから、仕方ない。


カルは深呼吸をしてから言葉を紡いだ。

「ボクたち3人がそれぞれ1隊を率います!」


カルの言葉に周囲の魔導士たちは一瞬戸惑ったものの、すぐに頷いて動き始めた。


隊長とはいえ、カルたちも普段は副隊長しか経験のないAランク魔導士に過ぎない。


しかし、この状況では彼らの指示が頼みの綱だった。


「やるしかない!!」

カルは拳に火と風の魔力を纏わせながら、Shade Wolfたちの群れに向かって歩き出す。







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