第1章 第5話 魔法美少年への変身

A級に昇格したカルは、イェシカから教えられた変身魔法を試してみた。


「Transformation(チョレァー⤴ンスファメイ↓シャン )!」


カルの身体は、魔法の力で輝き、まるで新しい命が宿ったかのように生まれ変わっていく。


変身を遂げたカルは、まさに「可愛らしい元気っ娘」と呼ぶべき姿になった。

彼の短い天パな黒髪はふわふわとした明るい茶髪のカールに変わり、目は明るいブルーの輝きを放っていた。

肌は透き通るように白く、笑顔は誰をも魅了するキュートさを湛えている。


この美少年(見た目はむしろ美少女といったほうが良い)は、まるで陽の光を浴びた花のように眩しく、見る者すべてを魅了する。


しかし、魔力を使っている間だけ、この姿を保つことができる。

魔力が消えると、彼は元のちょっと童顔な青年の姿に戻ってしまう。

そのことが、カルの心にほんの少しの不安を残していた。

カルは「この姿を失いたくない」と、強く思った。


その可愛らしい姿を見つめる傍にいたイェシカは、喜びと誇らしさと、同時に嫉妬が交錯していた。


イェシカは自らの姿を鏡で確認しつつ、まだBランクの魔導士として、変身が完全にはできないことを思い知らされる。


彼女の変身は、いまだ中途半端で「魔法姉さん」とも「魔法兄さん」ともつかない曖昧なものであった。


また、「日本人ぽくない外見」にもコンプレックスを感じていた。


イェシカは名前や顔立ちから察する事が出来る通り、ヨーロッパ系の混血児である。



「なんで、俺は…」イェシカは自分の感情に戸惑いながら、心の奥底で密かに研究を重ねていることを思い起こした。


いつかはカルに追い抜き返したい、師匠としての威厳を保ちたいという思いが、彼女の心を突き動かしている。


しかし、その思いはカルに対する嫉妬にもつながってしまう。


イェシカは、その嫉妬心を隠すために、いつも通りの笑顔を作ろうと努力していた。


一方、カルは自身の成長を喜びながらも、イェシカに特別な感情を抱いていた。


イェシカの明るい笑顔と優しい言葉が、カルの心に温かな光をもたらしている。


しかし、師匠と弟子という関係から生まれるこの想いは禁じられた恋であることを痛感していた。


彼の胸の内で芽生えるこの感情は、喜びと同時に深い苦しみをもたらしていた。


そんなある日、些細なことでイェシカとカルの間に亀裂が入った。


言葉の行き違いから激しい口論に発展し、カルは胸の内に溜まった悲しみを抱えて「ムワン!」と言ってその場を飛び出してしまった。


カル本人は「もうやらん!」と言ったつもりだったのだが涙をこらえながら言ったのでイェシカには「ムワン!」と聞こえたのであった。


カルは、何が起こったのか分からないまま、ただ走り続けた。


心には、イェシカに対する思いが葛藤し、孤独感が広がっていく。


「俺がこんな気持ちじゃ、そうなるよな…」背後で小さく呟いた。


イェシカは、追いかけることはできなかった。


彼女は立ち尽くし、カルの姿が見えなくなるまで、その場で思い悩んでいた。


胸の痛みがイェシカを襲い、涙がこぼれそうになるのを必死に堪えた。


数日後、訓練期間を終えて「正社員扱い」となったカルはいつものように日本魔導士連盟大阪支部に出勤した。


今日からは上のフロアの倉庫作業も担当することになる。


何故ならばこの組織は表向きは一般の物流系企業に擬態しているからである。


当然、魔導士の活動とは別に品物の受注や管理なども行っているのだ。


新たな力を得た彼は、人々を助けることを決意していた。


おそらく、魔法を使って色んな人達の仕事を手助けするのだろう。たぶん


そういえば魔導士って何をするのかよく知らないカルであったが、

「イェシ姉といればきっと大丈夫」と謎の楽観をしていた。


「でもまずは仲直りしなきゃ」


勤怠報告を済ませた直後、カルのもとに重大ニュースが届けられる。


「Bランク魔導士イェシカ」が失踪したという知らせだった。


その言葉が耳に入った瞬間、心が引き裂かれるような衝撃がカルの胸を襲った。

動揺と絶望が彼を包み込み、目の前が暗くなる。

イェシカの笑顔、優しい言葉、すべてが脳裏に浮かぶ。


「そんな、、、イェシ姉はどこに…?」思わず呟く。


だが、カルはすぐに気持ちを切り替えて自らを奮い立たせ、師匠に与えられた新しい力を使って人々を助けることを誓った。


「いつか、イェシ姉は戻って来る。そんな気がする。また会える日を信じて。」カルは心の中でそう呟き、彼女の行方を追う決意を固めた。その思いが、彼に新たな力を与えるのだった。

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