第3章 最終話 閉じこもるカル

大阪南港(おおさか・なんこう)、WTC(ワールド・トレード・センター)の28階。


あの壮絶な戦いからわずか数分後、ビルは崩れ落ちる寸前だった。


轟音とともに、上階がゆっくりと傾き、重力に従うように崩れ始めた。


だが、その混乱の中で、スイレンはその狼王(Rei)の力を全開にし、無数のShade wolf(シェーイドゥ・ウォゥーフ)を呼び寄せた。


そしてスイレンに人命救助を命じられたその狼たちは、必死に崩れゆくビルの高層階の中で、人々を救出するために奔走していた。


それでも、巨大な破壊の前には何の抵抗もできない。


ビルは崩れ、倒れ、運命を共にしたかのように次々と断片が空に飛び散る。


しかし、絶望的な状況の中、スイレンは一歩も引かなかった。


スイレンは狼王として、そして闇の魔導士として、28階以上のフロアにいる命を守り抜くことを誓った。


「大丈夫だ、皆。」


スイレンの低い声が、どこからともなく響く。


その瞬間、ビルを支えるように姿を現したのは、咄嗟に巨大化した狼王(Rei)、つまりスイレンだった。


その力強い支えにより、ビルの崩落は止まり、下層階の人々は命を取り留めた。


だが、事態を目撃していた人々にとって、これはただの自然災害などでは説明できない異常な出来事だった。


ビルの上層階が崩れる中で、突如現れた無数の狼たち、

そしてその最強の狼の王――それに誰もが恐怖と興奮を抱きながら、言葉を失った。


「これは一体……?」人々は口々にささやき、スマホを取り出してその光景を撮影するが、次の瞬間、すべてのスマホがフリーズし、ネットは完全に遮断されてしまう。


「なんや?魔法かなんかけ?」誰かが呟いた。


しかし待てど暮らせど警察や消防隊の姿は全く見当たらず、代わりにやってきたのは、日本魔導士連盟大阪支部の光の魔導士たちだった。


彼らはただちに現場の整理と後始末を始め、誰もがその異常事態に冷静に対応する。


槇原桃子と泉水なつきは、時折顔をしかめながら言った。

「こんな時にカルちゃんは休み?ホンマに何してるんあの子は!?」


「役立たずめ。」白神は小声で呟く。


橋本拓海(はしもとたくみ)は、まるで悪戯っ子のように笑っていた。


「いやー、カルさんついに飛んだっすか?ウケるっす!」


スイレン、いや狼王(Rei)は全員救助したことを確認するとどこかへと走り去っていった


そして、カルはスイレンの呼び寄せたShade Wolf(シェーイドゥ・ウォーウフ)たちによって家まで運ばれ、無事に自室に辿り着いた。


――ただ一人、自室で三角座りをして、カルの脳内では様々な感情が混じり合っていた。


「スイレンの正体はイェシ姉やった。」


「イェシ姉が闇に落ちた……?」


「でも、嬉しい……イェシ姉と会えて、嬉しかった。」


「そういえば……チューされたよな、僕。」


「よく考えたら、確かに闇の魔導士って何も悪いことしてないよな?」


「でもイェシ姉にはボロ負けしたし……ちょっと怖かった。光に戻ってきてほしい」


「優しいイェシ姉と、優しくないイェシ姉。どっちが本当?」


「でも、僕以外の女を抱いたんだよね、イェシ姉……」


「イェシ姉は何を考えてるの?僕のことどう思ってるの?」


「やっぱり……イェシ姉が闇落ちしたなんて……いやだ」


思考はどこまでもぐるぐると回り、感情の嵐がカルを支配していく。


何もかもが頭の中でごちゃごちゃに混ざり合い、三角座りのまま動けなくなっていた。


それから、カルは一週間もの間、寝込んだ。

心と体が追い付かない。


それでも、寝ている間に一度も自分が魔導士として何をすべきか、答えを見出せないままだった。


当然、日本魔導士連盟大阪支部にも顔を出すことはなく、彼が普段抱いている強い意志は今、まるでどこか遠くに消えたかのようだった。


そして、この物語の前編は静かに終わりを迎えた。


中編に続く

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双閃のシュプレンドル【前編】〜行方不明になった師匠が闇堕ちしてた件〜 一条蒼 @Aoi_Ichijoo777

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