第2章 第7話 カル、無力さと涙の夜
静寂な病室に、点滴の滴る音だけが響いていた。
戦いの疲労と白神に敗れた傷がカルの身体に重くのしかかる。
自分の力不足が全ての根源だという思いが、彼の心を締め付けていた。
そんな中、病室の扉が軽くノックされる音がした。
「カルちゃん、調子はどう?」
入ってきたのは、彼のアンチたちだと一目でわかる顔ぶれだった。
槇原に泉水なつき、などなど。
表面上は笑顔を浮かべ、花束や果物を手にしている彼らの態度には、一見すると親切さが溢れていた。
「いやあ、大変だったみたいやね。やっぱりAランク程度じゃSランクには歯が立たないよね。」
「それでもここまでよく頑張ったと思うよ。まあ、これからも頑張れば、Bランクに降格する心配はないかも?」
嫌味を隠しきれない声が、カルの胸をえぐった。
彼らの言葉には明らかな悪意が滲んでいるが、それを表面上の優しさで覆い隠していた。
「でも、あの白神さんの冷たい炎を浴びた瞬間のカル子ちゃんの顔、忘れられへんなあ。さすがに笑ったらあかん場面だって分かってたんやけど…はは、あ、ごめんね。」
「まあまあ、これからも人を守るために戦い続けてよ。私たちは応援してるからね!元気になってね!」
最後まで煽りを隠しきれない声とともに、彼らは部屋を出て行った。
扉が閉まる音が病室に響き、再び静寂が訪れる。
カルは呆然としたまま、彼らが去った扉を見つめていた。
その瞬間、胸の中にこれまで押し込めていた感情が一気に溢れ出した。
「僕は…何をやってるんや…?」
彼は震える手で顔を覆った。
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過去の記憶が蘇る
かつて魔導士になる前、カルは何度も失敗を重ねてきた。
はじめてつきあった彼女に別れを告げたあの日、
イェシ姉が消えたあの日のこと、
前の職場に上司から怒られたこと、
白神から巻き込まれる人々を守れなかったこと。
何故か師匠であるイェシ姉の背中が遠ざかっていく光景が、鮮明に脳裏に浮かんだ。
「人を守りたくて、この力を手に入れたはずなのに…イェシ姉と歩むためにこの力を手に入れたのに。
結局、何も変わらないじゃないか…!」
白神に敗北した現実、自分を嘲笑うアンチたちの言葉、それに重なる過去の失敗の記憶。
全てがカルを追い詰めていた。
そして、ベッドの上で膝を抱えながら、カルはついに声を上げて泣いた。静かな病室に、彼の嗚咽だけが響く。
「もっと…もっと力が欲しい…!」
その言葉は、誰に向けられたものでもなかった。
ただ、自分の弱さを悔いる気持ちと、どうしても乗り越えたいという決意の表れだった。
カルの涙は止まることなく、彼の決意を強固にしていった。
いつの日か、この無力感を超え、真に人を守れる力を手に入れるために。
いつかイェシ姉にまた会って褒めてもらうために
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