第8話 水も滴るいい男、ってね!

さて、晴れてルーポお姉ちゃんの弟になったわけだが、いや、なにを言っているかわからない人も多いだろうが、安心してほしい。僕自身もどうしてこうなったのかわからない。まぁ気に入られたのは確かだろう。


あの後、舎弟さんたちが粉砕されたコンクリートを片付けているのを横目にルーポお姉ちゃんに手を引かれながら本館の中に入っていった。


それから様々な施設を案内してもらった。体育館に、美術館、図書館に、理科学館等、それぞれの分野に対して別館が用意されている。つまりくそでかい。先ほどからそれしか言っていない気がするが、もちろん気のせいではない。気になった方は是非、数えてみてほしい、多分思っているほど言っていない。



「もちろん、別館ごとに本館と連絡通路で繋がっているから、雨の日も安全なんだぜ!」


それは安心だ。


ルーポお姉ちゃんは僕の肩を抱きながら、次の施設に案内してくれる。

案内が始まってからというものの、ずっと肩を抱かれてながら歩いている。最初はよかった。おっ〇いが当たって、いい匂いがして、とても役得であった。が、しかし身長差があるためか、体重を乗せられてだんだん重くなってきた。肩が痛い、そろそろ限界かも。


「ちょっと離れてもらっていいっすかね」


「なんでだよ、別に減るもんでもないだろ」


減っているよ、主に僕の体力が。


「弟はな、お姉ちゃんの半径1メートルから離れちゃいけない法律があるんだ」


「初めて聞きましたよ、そんな法律」


「だろうな、今作ったから」


ジャイアンみたいなお姉ちゃんだ。まぁ世の中のお姉ちゃんなんてこんなもんなのだろう。いや姉がいる人からすれば、きっとこんなものではないと言いたいだろう。姉とは実はジャイアニズムの塊なのかもしれない。


「さて、ついた、ここがプール館だ!」


「うわぁでっか!」


これまた圧巻であった。某プール施設もびっくりである。


「このプール館の一番の目玉は、セイレーンも満足する海水のプールがあることだな」


「セイレーン!セイレーンでやんすか?!」


「お、おう。そうだ」


「あの、セイレーン、でやんすか?!」


「『あの』がどれを指しているかわからないが、セイレーンだぞ」


「あの、下半身がお魚さんの、セイレーンでやんすか?!」


「いきなりどうした弟、セイレーンが好きなのか?というか、なんでそんな三下みたいな語尾になっているんだ?」


「いやセイレーンっていったらもう!」


セイレーン、それは男を誘惑する見た目と、正気を失わせてしまうほどに強力な催眠能力を持った歌声!いるなら是非!見てみたい!


そう思い見渡してみるも、誰もいない。別にプールの中の水が濁っているからだとか、プールが深すぎて底が見えないからとかといった話ではなく、本当に誰もいない。


「ルーポさん、セ、セイレーン、どこ?」


「お姉ちゃんな」


「お姉ちゃん、どこ?」


「ここだぞ、おいで」


「わーい」


お姉ちゃんが腕を広げたので遠慮なくその胸の中に飛び込む。

すごい、さすがあのコンクリートの塊を粉砕するだけのことはある。なかなかに鍛え抜かれた体だ。しかしすごいのはここからだ。その鍛え抜かれた体にも女性らしい肉体の柔らかさがある。そして基礎体温が高いのだろうか、とてもあったかい。


いや違う。セイレーンを求めていたのに。つい欲望に負けて飛び込んでしまった。


「今この時間はどこのクラスもプールを使ってないみたいだな」


「え、でもセイレーンはこの学校にいるんですよね、授業とかどうしてるんですか?」


「いや、何を言ってるんだ、なにか勘違いをしていないか?」


「勘違い?」


「いいか、セイレーンはな、陸に上がれるんだ」


「ど、どうやって?」


「足で」


「え!もしかして、あのタコの魔女と声と足を引き換えに契約したんですか!で、キスしなかったら声をとられちゃうんですよね!」


お姉ちゃんは怪訝な顔をしている。


「なんだそれ、そんな変な噂、誰から教わったんだ?普通に魚の部分を足に変化させてるだけだぞ」


「いや、まぁ、タキシード着たネズミさんに教わりました」


どうやらこの世界の人魚は、魔女と契約する必要はないようだ。


「じゃあ最後に、明日から弟が通うクラスを覗いて終わるか」


「お願いします」


最後に僕が通うクラスに案内してくれるようだ。正直、今回の案内だけですべての施設への行き方や使い方を覚えたわけではないが、これから慣れていくことだろう。でも、せめて地図とかあると嬉しいのだが。


「あ、地図渡すのを忘れていた」


「あるんかい」







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