第38話 イプノちゃんの勧誘は続く…

「この世で一番儚いものって何だと思う~?」


「いきなりどうしたのかなイプノちゃん」


悪魔特有の尻尾をゆらゆら揺らしながら、前かがみになってこちらの顔を覗いてくる。


朝、登校して、ちょうど校門を通ったところでイプノちゃんに声をかけられた。恥ずかしながら今日は寝坊をしてしまい、ギリギリの登校である(こんなに家が近いのに)。もうすぐ朝礼が始まるからここで長話をしている場合ではないのだが。



唐突だなぁ、そりゃあ儚いものなんていっぱいあるだろう。


「…もらえるかどうかわからない年金のために納めている税金?」


「…なんでそんなに悲壮たっぷりなの?」


「いろんなことがあったのさ」


ないけど。あったのは給料から税金が引かれた時に残るなんとも言えない感情だよ。



イプノちゃんは心底呆れた、というような表情をした。


「はぁー、愛よ!愛!」


愛だぁー?


そんなどこぞの〇爺かまじいみたいなこと言っちゃってさ、いきなり愛がどうとか言われたって困っちゃうんだよね。話が見えないよ。



「でも愛って無償の愛って言葉もあるくらいだから、そんな儚いものでもないんじゃない?」


「いいえ~、人間の中にある時点で、意志や感情がころころと変わってしまう人間が持つ感情の時点で、それは儚いものよ。結局人間、自分が一番かわいいもの~」


ふーん、で、いきなりどうしたの?


「いえ、別に、ただの会話のネタを提供しただけよ~」


そうかい。で今日はどうしたの?


「決闘お疲れ様~。いい体験ができたようで何よりよ~」


応援してくれて、ありがとう。


「おまけに私も稼がせてもらったわぁ」


それはよかったよ。


「だけれどね~今後もこのような事がないとも限らないと、お姉ちゃん思うのよ~

どう?ここは私と一つ契約をしてみるのも良いんじゃない?」


いやぁ、やっぱり悪魔と契約って言うのはちょっとね。


「私と契約したら、今よりも強くなれるかもしれないわよ~」


かもしれないって、絶対ではないんだね。


「あらあら、私は悪魔よ~。人間の願いをかなえて、その対価を頂く存在。強くなるかどうかは、あなたの願い次第、ね」


その対価が問題なんだよね、僕の元いた世界にも悪魔と契約した人の話があって…


「メフィストフェレスとファウスト博士の話かしら~?悪魔と契約したファウスト博士は自身の魂と引き換えに、果てない知識を得たのよね~でも最期は悪魔によって惨い殺され方をしたとかいう話だったかしら~?」


…どうしてその話を知っているのかな?


「どうしてって、あなたが教えてくれたんじゃない~」


そうだっけ?まあいいか、とにかく、そんな話を知っている以上、悪魔と契約しようとは思わないかな。


「あら、振られちゃったわ」


振られたなんて、そんなつもりじゃないんだけどね。


「いいえ~、あなたにその気はなくても、悪魔にとって、契約は大切な儀式なのよぉ、振られたようなものじゃない」


それは、まぁ、今回は縁がなかったということで…


「でも、きっとそのうち、ちゃんと契約しておくべきだった、なんてことが起こると思うわよぉ」


うーんでもなぁ…


うまい言い訳を考えていると、ちょうど学校のチャイムが鳴った。


「っておい!遅刻じゃないか!話に夢中になっていたわ!君も早く行くべき…ってあれ?」


もうすでにそこにはいなかった。


「僕をおいて、先に行ったのか?さすがこの世界の女子は足が速いな」


さっさと教室に向かうとしようと考えたが、今から急いでも遅刻は遅刻。

一周回って冷静である。ゆっくり教室に向かうことにした。




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