第39話 お弁当のお味はいかに…

さて、お昼休みだ!


今日はどうやらアムエルが僕のために、僕のために!お弁当を作ってきてくれるというので、実は朝から楽しみにしていたのである。


僕のことを貶しては、褒め、貶しては、癒し、を繰り返す、まるで僕の感情をジェットコースターのように急上昇急降下を繰り返させてくる彼女であるが、あんな子でも女子手作りのお弁当と言われると非常に楽しみにならざる負えない。


「あら?今日は食欲がない日ですの?」


ベラが少し心配そうに話しかけてくる。きっと僕が昼休みになっても机の上に昼食を出していないことに対しての疑問だろう。


彼女とはよく昼食を一緒に食べているので、僕が食欲がない日はお菓子等で済ませていることを知っているのだ。


「いや、今日は実はお弁当があるんだ」


「お弁当ですの?」


ベラと話していると、ちょうどいいところにアムエルが手にお重をもって現れた。

ナイスタイミングじゃないか。


…ちょっと待ってくれ、それ多くないか?いったい何段あるんだ。


「お昼休みね、お弁当持ってきたわよ」


「待ってましたよ!」


「ありがたく頂戴しなさい」


「ありがたく!」


アムエルが差し出したお重を恭しく受け取る。


女子から手作りのお弁当を受け取るシチュエーションは昔から憧れだったし、実現することができてとても嬉しい。


でも、量多くない?


「なに言ってるのよ、私の分もあるわ。一緒に食べるのよ」


ああ、なるほど。道理でこの量なわけだ。


「で、だれよこの女」


アムエルがベラを一瞥して言う。


「イザベラさんだよ、吸血鬼なんだ」


「もちろんしってるわよ、有名よね」


じゃあなんで聞いたんだよ。あ、もしかして僕と会話したかったのカナ!?このこのーいやつめ!


「...キモ」


「…」


今回はちょっと自覚あり。何も言えない。


そんな僕を横目にベラは自己紹介をすることにしたようだ。

「初めまして、イザベラ・R・ステレルーチェですわ」


「初めまして、アムエル・アルテリュイよ」


「彼とはいったいどういった関係ですの?」


「それはこっちのセリフよ。…そういえば、あなたは幼少の頃から重いであると聞いていたけど、治ったの?」


「…いいえ、治ってませんわ」


「そう、治るといいわね」


「…そうですわね」


「…」


「…」


空気わっる。ここだけ、どんよりしてるわ。シエーネがいたらなぁ。この空気をうまい具合に変えてくれるのだろうけど。


どれ、ここは僕が一つ、どでかい爆弾を落としてよどんだ空気を吹き飛ばしてやろう。


「こんな空気じゃ、昼ご飯をも起きないよ!」


「…」


「…」


「面白いですわね」


「そうね、におもしろいわ」


「…」


二人とも気を遣ってくれたようだ。ありがたい。


どんよりとした重い空気をかえることに成功した。

代わりに微妙な空気になったが。


「…お昼食べようか」


「そうね」


お重を開けると色とりどりのオカズや、たくさんのおにぎりが詰まっていた。

正直めっちゃ美味そう!


「お弁当、素敵ですわね。アムエルさんが作りましたの?」


「そうよ、私の手作りと、あと昨日の晩御飯の残りものも入れてるわ」


「おっと、僕は残飯処理班だった?」


「そのメンチカツはお母さんの自信作よ」


「手作りのお弁当とは?」


「失礼ね、ちゃんと私が作ったのもあるわよ、レタスとか」


「レタスかい!それは詰めたっていうんだ」


「あとその卵焼きね」


た、卵焼き?


…卵…鳥獣人?


「…まさか」


「その、まさかよ」


意味ありげにうなづいてこういった


「朝に出来たてほやほや、いえ、産みたてほやほや」



そのきれいな純白の羽を広げ、両手をこちらに向けて、満面の笑みでこう言った。


「召し上がれ♡」


「倫理的にどうなんですか!?」


「お肉を食べてる時点で倫理もクソもないわよ。そんなこといったら野菜だって生きているし、水には微生物が存在しているわ。私たちは命を消費して生きているのよ。卵も一緒。食べずに捨ててしまうほうが、倫理的ではないわ。じゃあ、私たちは何を食べろというの?空気?それとも死ねって?」


「確かにそういわれると、感謝して食べたほうが倫理的な気がしてきた」


「はっ!単純ね、単細胞ね、いえ、まだ単細胞の方がいくら賢いかもね」


「…あんまり、他人を貶すようなことは言わないほうがいいと思いますわよ」


流石ベラちゃん!いい子!しかしアムエルの恐ろしいところはここからなのだ!


「でも、そこが好き」


「へ?」


ほら、ベラちゃんもびっくりしてる!聞き間違い?見たいな顔してる!


「で、でも鳥獣人にとって、卵ってそんな簡単に、あったばかりの人間に食べさせて良いものではなかったはずですわ!…それこそ家族とかでなくては」


「良いのよ、私たちはもう夫婦だから」



「え」


「え」


「…なによ」


「…またまた冗談キツいって!」


「そ、そうですわよね!いきなり夫婦だなんて!この年ではまだ早いですわ!」


自分のことを棚に上げるイザベラだった。


「…まぁ良いわ。他人にこういうこと伝えるのは恥ずかしいわよね。大丈夫、私はわかる女よ」


そう言ってアムエルは何かを考え始めた。

何を考えているにだろうか。

そのいつも変わらない表情からは何も読み取ることができなかった。

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