第43話 大胆ね~! 大胆さは若さの特権よね!
「はっ」
知らない天井だ(二回目)。
二回目にもなれば、慣れたものだ。慣れてはいけない気がするが、パニックになるよりはマシであろう。
ここは…
また殺風景な部屋だ。
僕はベットに寝かされていたようだが、ベットの他には小さなテーブルが一つしかない。
僕がベットから動かずに、首を回して状況を確認していると部屋のドアが開かれた。
「あら、起きたのね。気分はどう?」
「…全く最高の気分だね」
「そう、それは良かったわ」
皮肉だよ。
「さて、さっそくだけれど、僕に一服盛ったようだね。理由を聞かせてもらってもいいかな」
「理由?簡単なことよ。あなたは私の夫だからよ。そんなこともわからないのかしら。おめでたい頭ね」
「…全く話が読めない、まず、僕は君の夫ではないんだけど」
「は?忘れたとは言わせないわよ。私の羽を綺麗だと、欲しいと言ったじゃない」
「言ったね」
「そういうことじゃない」
「どういうことじゃない?」
「もしかして、知らずに発言していたのかしら。…まぁそうだろうとは薄々気づいてはいたけどね。じゃあ、浅学な、せ・ん・が・く・な!あなたに教えてあげるわ」
「浅学で悪かったね」
「問題ないわ、あなたはこちらに来たばかりだもの、私が傍で支えてあげるわ」
「あら、素敵」
だんだん返しも適当になってくるというものだ。
「鳥獣人は、プロポーズの際に自分の羽を渡す習慣があるの」
「なるほど、つまり僕がした行為というのは…」
「さしずめ、逆プロポーズといったところね」
「…なるほどね」
僕は知らずのうちにプロポーズをしていたわけだ。時々話が嚙み合わないと思ったが、そういう理由があってのことか。いやまあ知らずのうちにとか言っているけれども、もっと考えて行動するべきだったのだ。全く飽きれる。決闘の時となにも成長していないではないか、ここは元の世界ではないのだ。どんな行動が、どんな発言が自分を窮地に追いやるかわかったものではない。
「理解はしたよ、納得はしかねるけどね。でも、やっぱりわからないな、夫だからと言って一服盛るのはどういうことかな?もしかして鳥獣人には初めて家に来た夫に薬を盛る習慣でもあるのかい?」
「あるわけないでしょ、浅学なあなたといえども、限度があるわよ。浅学すぎてもう平面じゃない。広く浅くとは言うけれども、平面に思えるくらい浅かったら、それは学んだうちに入らないわよ」
「じゃあ、どうして薬を盛ったんだ」
「私、この前も思ったけど、今日、あなた痴漢されたでしょ」
「そうだね」
「やっぱり、外は危険だと思うの。あなたは他の男性よりもすごく優しいから、私、心配になっちゃって」
「おや?」
「決闘の話もあったでしょ、聞いたわよ、あなたがあの吸血鬼を助けたからだって」
「おやおや?」
「正直、嫉妬したわ。私はあの子よりも後の女だけれど、羨ましかったの。あなたが他の女と仲良くしているのが我慢ならなかったわ」
「おやおやおや?」
「確かに、私とあなたは出会ってからまだ数日よ。それでもあなたのその柔らかな温かい瞳や優しい性格に惹かれてしまったの」
「おやおやおやおやおや?」
「勘違いしてしまったの、いえ、こういう被害者意識はよくないかもしれないけれど、勘違いさせられてしまったの。あなたも気づいていたでしょ、私の好意に」
「いや、まぁ、そうね」
「ほら!」
「ほらて」
「だからこの家に閉じ込めておくことにしたわ」
「…おもしろくない冗談だね」
「冗談じゃないわよ、布団をめくって足を見てみなさい」
「足?」
言われた通りに布団をめくって足を見てみる、正直、先ほどから目をそらしていた、足にある、足首にある違和感を。
足には足枷がはめられていた。
足枷はどこかに繋がっているようだった。
「また、物騒だね」
「これをつけるために、あなたには眠ってもらったわ。もちろん普通につけることもできたけれども、暴れられたら大変だから」
「そいつはどうも、ありがとう」
「いえ、大したことではないわ」
皮肉だよ!あと大したことだよ!
「でも、この部屋は見ての通りなにもないから、一緒に必要なものを買いに行きましょう。自分で使うものは、実際に見て買わないとね。その時はこの部屋から出してあげるわ」
「お気遣、ありがとう」
「遠慮しないで、夫婦じゃない」
「皮肉だよ!こんな夫婦が世の中にいるわけないだろ!」
「一緒に愛の巣を作っていこうね、あなた♡」
そう言うやいなや、アムエルが僕のベットの中に入ってきた。
「うふふ、私、愛しい人と一緒に添い寝するのが夢だったの」
アムエルはその大きな白い羽で僕を包みつつ、両手両足で僕の体を抱き枕のようにがっしりとホールドする。
「おやすみ、あなた」
「いや、寝られても困る!話はまだ終わってない!」
「あなた冷静じゃないわよ、もう一回寝て、頭を整理しましょ」
「これが冷静でいられるか!」
「じゃあお休み」
「ちょ!こら!」
「…」
しばらくして、寝息が聞こえてきた。
僕にこんなことしてきたアムエルだけれども、真正面から優しいとか言われてしまうと、それが頭にちらついて起こすのも忍びなくなってくる。
寝顔はまるで天使のようにかわいい、いやかわいいというよりも美しいというべきか。
それに相も変わらずとってもいい匂いがする。
…僕も寝るかな。
とりあえず、今はいろいろ考えても事態は進展しない。
この状況でこのような考えができるようになった自分に驚きつつ、僕は本日二度目の睡眠をすることにした。
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