第25話 彼も必死だったのさ

「どうやら逃げなかったようだな、そこに関しては褒めてやろう」


場内中央では、例の男、オタン君と以前のオタン君の後ろで控えていたスーツの猫獣人さんがいた。もっとも今はスーツではなく、動きやすい服装に関節にサポーターや胸あてを着用しているが。


「一週間ぶりですね、本日はどうぞよろしくお願いいたします」


「こちらこそ、是非お手柔らかに」


「それはできかねます、私は怒られたくないので」


「残念です」




「はい!お話やめ!もう時間もないですから、いくつか確認をしてさっさと始めますよ」


「せんせぇ」


「今日は審判です」


決闘場に入るまでに気が付かなかったが、審判は僕の担任の先生だった。知り合いというだけで、少し気が楽になるような気がした。


「では、お互いに向かい合って。お互いの要求を表明しなさい」


「俺は、貴様の土下座を要求!そして俺を不快にさせた慰謝料、金5000万を要求する!」


「僕は、オタン君がイザベラさんに謝罪することを要求します」


「よろしい、ではオタン殿、代理人制度を利用しますか?」


「当り前だ!こちらは俺の代わりにノーシャを出す!」


「承認しました。では転入生君はどうしますか」


「僕は代理人制度は利用しません、僕自身が出ます」


「承認しました。…気をつけなさいよ」


「ありがとうございます」


先生が心配してくれたようだ。僕も僕自身が心配だよ。


「ふん、貧乏人は代理人も雇えないのか、寂しいものだな!財布が!」


「ふん、オタン君は自分で闘うこともできないのか、小さいものだな!肝っ玉が!」


「貴様!  …ふぅー。そんなやっすい挑発には乗らんぞ」


「おっ」


どうやら彼も日々成長しているらしい。


「では、決闘する者以外は外へ」


「ノーシャ、負けたらどうなるかわかっているな」


「肝に銘じて」


「では対戦者は位置について」


お互いに向かい合いながら距離を取る、距離としては10メートルくらいだろうか。


「位置についたか?それではお互いに礼!」


お互いに礼をして、顔を上げる。


一瞬の間。


「はじめ!」


決闘が始まった。僕は当初の計画通りに決闘場脇へと走って向かう。


「どこへ行くのです?」


速い!速さはルーポお姉ちゃんと同等かそれ以上か!


しかしここははすでに決闘場脇である。ここからうまいこと投げて場外へ飛ばせばこちらの勝利!


「お手並み拝見させて頂きます」


貫き手が飛んでくる!速い!しかし見える、僅かながら見える!見えてしまえばほぼ僕の勝ちである。


オールカウンターが発動し、飛んできた手を掴め…ない!


バックステップで避けられた!


「狙いが見え見えですよ」


「!」


消えた!?どこへ行った?


刹那、背中が爆発したかのような衝撃。


「グハッ!」


肺が圧迫され、肺の中の空気が出ていく。


そのままの衝撃で中央の方まで飛ばされる。


どうやら後ろに回られて背中から蹴られたようだ。


「ぐう」


痛ったぁ、痛ったぁ、痛ったぁ、痛ったぁ、痛ったぁ、痛ったぁ、痛ったぁ、痛ったぁ、痛ったぁ、痛ったぁ、痛ったぁ、痛ったぁ、痛ったぁ、痛ったぁ。


マジで痛い、何本か、骨、逝ってるだろこれ。


「弟!」


お、お姉ちゃん?


「気合だ!」


気合か、気合で痛みがどこかへ飛んでいくのかよ?


「大丈夫!プランBだ!」


プランB?そうか、すっかり忘れていた。僕らが用意した秘密兵器。


ようし、立て立て!僕!もうちょい!

僕、この戦いが終わったら、イザベラさんのおっ〇いでパフパフさせてもらうんだ。ほんでもってシエーネの尻尾も好き放題するんだ。


ルーポお姉ちゃんは怖いから遠慮しておきます。


膝を抑えながらゆっくりと立ち上がる。

息も絶え絶えだよ全く、お手柔らかにって言ったのに。


「蹴りなので、手ではないですよ」


「そういう、ことじゃねえよ」


突っ込みもキレがなくなってきた。

さぁ気合を入れて、ファイティングポーズをとる。


「さぁ!こいやあ!」




攻撃、見える!蹴りだ、左足で内側に捌き、タックルする。


「捌かれた!?男がこの速さに反応した!?」


「僕の力じゃないけどね!」


しかし、僕の力、男の力では相手を倒すことはできなかった。


「力は男そのもの…反応速度が化け物ということですか?いや、その魔道具ですね」


「ご明察!しかし!僕に近づかれた時点で、君の負けだよ」


「…?はっ!しまった!」


「おやおやおや、どうしたかな?お顔が赤いようだ」


「ぐっ!ひ、卑怯、ですよ」


「いや申し訳ない、でも男の僕が女子である君と闘うのだから、これくらいは許してほしいね、おや、足元もおぼつかなくなってきたようだね」


「…マタタビですね」


「そうさ、マタタビだよ」


今日のために僕はマタタビエキスを入れた水で服を洗濯し、その洗濯した服をマタタビの葉で包んで熟成。そして当日、今日の朝に再びマタタビエキスをかけた、対猫獣人装備、マタタビ服を用意していた。


正直、僕にはマタタビの匂いはわからないが、猫には効果覿面なようだ。


「つまり、今の僕は全身マタタビ人間ってわけ!」


「これ以上、酩酊する前に…!」


「そんな破れかぶれのふにゃふにゃ猫パンチに当たるわけないだろ!」


マタタビがキマった今では、先ほどのような速さは見る影もない。

その腕を右手でつかみ、一ヶ条で抑え、左手を相手の肘に添えて、そのままうつ伏せの状態に倒す!


「ぐあっ!」


「力もだいぶ弱くなったな」


猫にマタタビ、猫獣人にマタタビ、この世界では猫獣人に対してマタタビの提供は20歳かららしい。お酒の扱いみたいになってる。


「しかしここからだよね、僕の力ではボコボコにはできないし」


「そう、れす!まら、ここから!」


「呂律も回らなくなってきたか、でも、猫といえば、ここだよね!」


僕は無防備な猫獣人さんの腰をトントンする。


「あっ///まって///そこっ!///だめっ!」


「ほーれほれ、ここがええんか?ここがええんかぁ?」


トントントントントントントントントントントントントントントントントントン


「あっ//あっ///あんっ///いやっ!//やめてっ!」


トントントントントントントントントントントントントントントントントントン


「いやっ///あっあんっ! …みゃー♡、みゃーにゃー♡」


「うん?」


猫獣人さんの抵抗がなくなり、僕にしなだれかかる。


「みゃうー♡」


猫獣人さんはそのまま僕の体に自分の体をこすり付けるようにスリスリとしてきた。


「ちょ、ちょっと離れて…」


「みゃーみゃー♡」



「そこまで!戦闘不能!勝者!転入生君!」


「…なんとか勝ったぁ」


しかし、歓声の一つ聞こえない。むしろなぜか空気が凍っているような。特に観客席にいる猫獣人さんたちは顔を赤くしてもじもじしているように見える。


「おい、転入生君」


「先生?」


「やりすぎだ」


「え?どういうことです?」


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