第32話 猫はお手柄

落ち着かせようにも、僕の声は聞こえていないようだし、抵抗しようにも悲しいかな、この世界特有の男子の貧弱な力では女子の力には敵うわけもなかった。


「助けてえええええ!誰かああああ!」


もう助からない、そう思った。


刹那。


「承知しました」


凛とした、声が聞こえたような気がした。

部屋の窓からガッシャーンと大きな音を立ててガラスが割れ、黒い影が入ってきた。

その黒い影は窓を割った勢いそのまま、イザベラさんに飛び蹴りをかました。


「ぐぅ!」


蹴とばされたイザベラさんはそのまま壁に激突した。打ち所が悪かったのか、そのまま気絶してしまったようだ。


侵入者は、いわゆる忍者のような黒い装飾を身にまとっていた。


「ご主人の身に危険を察知、お助けにまいりました」


「その声!お前、ノーシャか!」


ノーシャお前、かっこいいじゃないか!でもちょっとやりすぎだったんでない?なにも蹴とばすことなくてもいいでしょ。


「大丈夫です、このくらい吸血鬼にとっては痛くもかゆくもありません。多少の傷なら即座に回復します」


「そうなのか、便利な体だね」


「もちろん、様々な弱点はあります、なかでも太陽には弱い…はずだったんですが、現代の吸血鬼はそれを克服しています、一時期は肌を焼くのが流行っていました」


「楽しんでるねー」


ちょっと前に転移していれば、黒ギャル吸血鬼をみることが出来たというわけだ。



「何の音だ!侵入者か!」


ドアが勢いよく開かれ、武装したメイドさんとベルのお母さんが入ってきた。


「大丈夫か少年!ってイザベラ!?…気絶している。貴様!何やつ!捉えろ!」


メイドさんたちがドラムマガジンのマシンガンのような物を構える。それ本当に捕まえる気あるのか!?殺す気満々じゃないか!


「まてまてまって!これには事情が…」



<かくかくしかじか>



「そういうことだったのか…」


ベルのお母さんは頭が痛そうに、手で頭を押さえている。


「すみません、窓の弁償はいたしますので」


「いや、する必要はないよ、もとはといえば、私の娘が悪いからね、それにそのガラスは特殊加工されていて、とっても高いものだ、いくら男性が月々補助金が出るからと言って、払えるような額ではないよ」


「…すみません」


「それを割るとは、君、やるじゃあないか」


「ありがとうございます」


「それに比べて、イザベラ…なにをしとるか」


事情を説明している際に、ベルは気絶から復活していた。


「だってお母さま、彼をこの家に無理やり泊めたということはそういうことかと…」


やっぱり無理やりだったのか、まぁそりゃそうか。すでに雨は止んでるし。


「早すぎる!こういう男女の関係というものはちょっとずつ距離を縮めていくものだ!はなからぶっ飛ばすやつがあるか!」


「申し訳ございません…」


ベラはしょんぼりしている。しょんぼりもするだろう。


「まあ、ほら、僕は気にしていないから!」


「…許してくれるのですか?」


「少年…それはそれで、我々としては助かるわけだが、君のはちょっと心配になってくるぞ。他の女子にはあまり優しくしないようにするのが君のためだが…」


「いやそれは人間としてどうかと…」


「だろうな、少年ならそう言うだろうと思ったが、多少無視したり、冷たくしてある程度の関係にしておくのが賢い選択ということもある。考えておくといい」


「…アドバイスありがとうございます」


「よし、今日はもう遅い、寝るぞ、全員解散!」


この後は、窓が割れたままの部屋で寝ることはできないので、別の部屋を変えてもらった。ノーシャに関しては、僕がまた襲われるといけないからといって一晩中ドアの前で見張りをするといっていた。

普段からこうであれば良いのにと少し思った。勿体無い。


というか、あいつ僕が叫んだ瞬間に部屋に突入してきたわけだけれども、どういうこと?尾行とかされてたのか?そうでなければ説明がつかないだろう。


後で話を聞く必要がありそうだ。




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次の日の放課後、僕は、手土産をもって生徒会室の前に訪れていた。

というのも決闘をするにあたり、聖女様に世話になったからだ。


「手土産はこれでよかったのだろうか」


手土産で選ばれたのはどら焼きだった。聖女様はどら焼きがお好きなようだ。ルーポお姉ちゃんに聞いたから間違いない。


今の時代にどら焼きが好きというのもなかなか渋いと思うが。


ドアをノックしようと手をかざした瞬間。


扉の向こうから声がした。

「どうぞ、お入りください」


扉の向こうには、神々しい見た目をした女性がいた。本当に同年代の女性だろうか、まるで作り物のような美しさだ。


彼女こそ、


ラヴニール・ラ・プロフェテス


聖女である。

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