第9話 花言葉って誰が考えたんだろうね

プールを出て、本館に戻り、僕が明日から通うことになる教室へと案内される


「ここが、弟が明日から通う教室だな」


「ここですか」


「そうだ、教室の扉の小窓からそっと、中見てみろよ、今授業中だから」


僕も少々気になっていたので、教室の小窓から中を覗いてみる。

音を立てないように、そっと覗いてみると、見事に女子しかいなかった。


「まぁ、そりゃそうだろうな、むしろこの教室に男がいないからこそ、このクラスに転入になったんだろ」


「どういうことです?」


「うちの学校はクラスに一人は男子がいるようにしているんだ。理由は…わかるだろ?」


なんとなくわかる、この状況を元の世界に常識に変換して考えてみればよいことだ。男という生き物は女子がいるとついつい張り切ってしまうもの、それが女子が少ない世界ならなおさらであろう。つまりこの学校はそういった状況を意図的に作りだして女子たちのやる気を引き出そうという魂胆であるということだ。とても賢いやり方だと思うが、この世界からの男子の反発はないのだろうか。まぁ、あったところでこの学校の規模なら多少の不満点があったとしても、といったところだろうか。


他のクラスも授業をしているので、邪魔にならないように本館を離れて、外へと向かう。


「さて、弟、学校の案内はこれで終わりだ。これからどうするんだ?帰るのか?」


「はい、今日はもう帰ろうかと思います。学校の案内ありがとうございました」


「いや、礼はいらねぇよ。仕事だからな」


「そうでしたか、ではお仕事頑張ってください。お疲れ様でした。お先です」


「おう」


そうして学校を離れ、しばらく歩く。さて、帰ってどうしようか。まだ組み立て終わってない家具があるからそれをやってしまうか、いやお腹すいたな。まずご飯かな?この世界にもコンビニエンスストアはあるから、ちょっと見ていこうか。


「しかし、あの手の組み立て式の家具は慣れてないと組み立てるのがだいぶ大変なんだよな。猫の手も借りたいぐらいだ」


「ほーう。狼の手はいらないか?」


「狼か、狼はなーそういうイメージがないからなぁ。いや猫もあるかと言われたらそんなイメージはないけれども、ってオイ!なんでついてきてるんですか!?」


「なんでって、オレはお姉ちゃんだから」


「それですべてが説明つくと思ったら大間違いですよ」


「じゃあ、送り狼だから」


「なるほど、狼そのものだから」


「そうだ、じゃ、家に行こうか」


「いやいやいや!おかしいって!それとこれとは別でしょうに!」


流石に出会ったばかりの人を部屋にはあげたくないので(そもそもまだ部屋が片付いていないのだ)なんとかして断る理由を考えていると。


「見つけた、全く、ここにいたのか」


落ち着く、女性にしては低い声が聞こえた。


「サボろうとしてはだめだよ、君はそうやってよくサボるから、仕事が溜まってしまうんじゃないか」


振り返ると、スラっとしたモデルのようなスタイルにふわふわとした短めの柔らかそうな金髪、目元は花のように優しく微笑む美人なエルフさんがいた。


「ああ、君が転入生だね、話には聞いていたよ。私はルグレット・フラグルニル。生徒会の会計をしてる。見ての通りエルフだよ」


「・・・っは!はい!転入してきました!めっちゃ人間です!お世話になります!」


びっくりした。元の世界でもエルフは美しい存在とされていたが、いや正直言い過ぎというか、やりすぎというか、別にあってみたら大したことないんじゃないかとか思ってたけれども、なるほど、人間とは思えない美しさだ、いや人間ではないのだけれど。一瞬見惚れてしまって、思考が停止していた。


「ふふ、男の子なのに、物腰が柔らかくていいね、これを君に」


ルグレット先輩は、白い学ランの胸ポケットに刺していた薔薇の花を僕に差し出した。


「えっと、ありがとうございます」


なんか所作や美しさ、髪の短さも相まって、まるでどこかの王子様みたいだ。いや月並みな表現だが、許してほしい。先輩がエルフであるというのも拍車をかけている気がする。


そうした先輩の行動にフリースしていると先輩は僕に近づいてきて耳元で囁く。


「ふふ、いくら花でも、君の美しさに前にはかすんでしまうね。これ、私の連絡先だ。良ければ連絡してくれ」


先輩を渡された連絡先が書いてある紙を、お姉ちゃんに横取りされて破られた。

「まてまてまてまてまてぇぇぇぇええい!」


「おや、いたのか」


「いたわ!わすれんな!っつかよ!なーに人の弟に手ぇ出してんだよ!」


「弟?血のつながりはないだろうに、後輩に変に絡んではいけないよ。それより、学校に戻るよ、仕事が残ってるんだから。じゃあね転校生くん」


そうしてリグレット先輩はお姉ちゃんの首根っこをつかんで、学校の方向に戻っていった。


「ああああああー!弟ー!オレの弟ー!」


あのお姉ちゃんの首根っこを掴むとはこの人も相当強そうだ。


「あ、そうそう。花というのはストレスを軽減する効果がある。是非楽しむといいよ」


「?」


そうして先輩たちは学校に戻っていった。


あの後、コンビニでおにぎりを買って、お昼を済ませ、家具の組み立てに取り掛かった。


そういえばもらった花どうしようかな、花瓶とかないしな。花はストレスを軽減してくれると先輩は言っていたが・・・ん?花になにか挟まっている。


ルグレット先輩の連絡先が書かれたカードだ。


抜け目ないなあの人・・・


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