第36話 流れるに流されて
「夫婦って…?」
「文字通りの意味じゃない、そんなことより、早く終わらせてしまいましょうよ。私、行ってみたいお店があるのだけど」
「へー、どんなお店なの?」
「ハーブティーのお店よ、とってもSNS映えするの」
「SNSとかやってるんだ、以外だね」
「は?私が?やってないわよそんなもの」
「ん?じゃあなぜ?」
「きれいだからよ、きれいなものに興味を持つのは普通のことでしょ。ちょっと考えればわかるじゃない。雑魚ね」
「雑魚!?」
「でもそこが、いとしいわ」
「…それ疲れない?」
「なにが?」
この子、もしかして僕だけじゃなくて他の人にもやっているのだろうか、だとしたらあんまりこういうことは言いたくないが、絶対に友達いないでしょ。いやむしろ最後に好意を伝えてるから一周回って友達が多かったり…?多くなかったり?
「ふぅ、最後の一枚ね。じゃあ私が残りの分のポスターを持ってくるから、あなたはそこで待ってなさい」
「あ、うす」
そうして僕らは残りのポスターを貼り終えて、一緒に先輩の元に戻ることにした。
「先輩、終わりました」
「お、終わったかい。じゃあ帰ってもいいよ」
「ありがとうございます、お疲れ様でした」
この子、先輩に対しては普通だな。もっとこう、“は?見ればわかるじゃないですか、アホですか?”みたいなことを言うのかとばかり思っていたが、流石にそんなことはなかったようだ。
じゃあ僕だけ?それはそれでどうなんですか?泣いちゃうよ僕。
「お疲れ様でした」
僕もルグレット先輩に挨拶をする。
「はい、お疲れ様。あ、そうだ君、この後暇かい?」
この後は帰るだけなので、用事はない。でも宿題があるんだよなぁ、面倒くさい。
先輩は僕に用事でもあるのだろうか、それならばその後に宿題でも教えてもらおうかな。
「特に用事は…痛っつ!?」
「すみません、先輩。今日は私とこの後デートですので」
こ、こいつ…!思いっきり僕の脇腹をつねりやがった!僕がいったい何をしたっていうんだ。ええ!?ちょっと羽がきれいだね!って言っただけじゃないか!
っていうかデートの約束なんてしてないぞ?
「デート?」
「おっと、先を越されてしまったようだね、君、次は私とデートしておくれよ」
「…あはは」
「では先輩、お疲れ様でした。ほら、いくわよ」
「あ、うん、お疲れ様でした」
校門を出て、僕らはそのSNS映えするとかいうハーブティーを出す店に向かっている。なぜ知り合って数時間の、しかも名前もしらない子と放課後デートをしているのか。人生なにが起こるかわからないものである。
「アムエルよ」
「アムエル?」
「アムエル・アルテリュイ。私の名前。アムちゃんって呼んでね☆」
片足を上げ、両手を頬にあてて、ポーズを決める。いわゆるぶりっ子ポーズってやつだ。
かわいい。でもやり慣れていないのだろう、片足がプルプルと震えている。
「無理してない?」
「無理したわ」
「無理したんだ」
「あなたこういうの好きかと思って」
「うーん、そうだね、確かに好きではあるけれども、今回のアムちゃんの場合はそれに加えて、ちょっと無理しているという事実が非常にいいよね」
「うっわきっしょ」
「シンプルな悪口!」
「でもかわいい」
「…ありがとう!」
なんか慣れてきたぞ。適応力が大事だ。人間、生きる上で大切なスキルとして適応力はトップ10に入るぐらいには大切なスキルだと思う。
「あと、アムちゃんはやめて。あれは冗談よ」
「じゃあなんて呼べばいいの?」
「普通にアムエルと、呼び捨てでいいわ」
「わかった、アムエル」
「よろしい…ついたわね、あれよ」
着いたようだが、あれは店というよりは、
「いや、キッチンカーじゃないか」
「広義では店よ」
「確かにそうだけども…」
「他人の発言にいちいちケチをつけるなんて、器が小さいわね。そんなことが気になるなんて、よほど自分に自信があるのでしょうね。そうでなければそんな風に他人に指摘するなんて真似ができるはずがないわ。私もその高い自己肯定感は見習うべきなのでしょうね」
「いや…それは「そんなあなたに私は惚れ惚れしちゃうわ」
「食い気味だねぇ!」
「もういいから行くわよ」
「切り替えが早い!」
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