第6話 結果の報告

 翌日、放課後になると、有栖はすぐに教室を出て行った。これから月城たちと話すのだろう。その結果は気になるが、俺は部外者だ。


 教室を出て、俺はまた例の公園に行く。今日の猫は白猫と茶トラ。いつもの2匹だ。白猫をなでているとメッセージが来た。


有栖『拓実君、今どこ?』


拓実『公園』


有栖『遅くなるけど行くから』


 来るのか。有栖も結果を報告したいのだろう。俺は猫をなでながら待っていた。しかし、有栖はなかなか来ない。もう辺りも暗くなってきたところで、ようやく有栖が来た。


「ごめん、遅くなって。あ、今日は二匹だ。黒猫ちゃん、来てくれないかな」


 有栖がそう言うと同時に藪から黒猫が現れた。


「黒猫ちゃん、来てくれてありがとう」


 有栖は腰を下ろし、黒猫をなでだした。


「有栖、遅かったな」


「……うん。生徒会長候補の先輩といろいろ盛り上がっちゃって。月城君と一緒に、私のやりたいことを見てもらってたんだ。そしたら、自分の考えに近いって言われた。だから、推薦人になることにしたよ」


「そうか、よかったな」


「よかったかどうかはこれから次第かな」


「まあ、そうだな。月城はなんて言ってたんだ?」


 中学の時に実現できなかったことを有栖が言ってきたんなら、月城はあまりいい気持ちはしなかったんじゃないだろうか。


「……中学の時の生徒会のこと、謝られちゃった。私の意見を生かせてなかったって」


「そうか……」


「うん……それで来年は私に会長に立候補して欲しいって言われたの。自分が副会長するからって」


「そうなのか。で、それを受け入れたのか?」


「それは保留にしてる。一年、生徒会をやってみてから考えるって」


「そうか、それがいいな」


「うん。拓実君、今回は相談に乗ってくれてありがとね。拓実君が居なかったらこうすんなりとはいかなかったよ」


「何言ってるんだ。俺は有栖がやりたいことを引き出しただけだ」


「それが、大きかったんだって。ほんと、ありがとう。お礼するよ」


「いいよ、別に……」


「だめ。絶対、拓実君にお礼するからね」


 有栖の決意は固いようだ。


「……わかったよ。適当にお菓子でも買ってきてくれ」


「そんなんじゃダメだよ。ちゃんと考えるから」


「わかった、わかった。でも高級品はやめろよ」


「うん。何か考えるから。さ、じゃあ帰ろうか」


 公園を出て有栖と一緒に帰り道を歩く。と言っても公園の外に一緒に出たのは初めてで、有栖の家がどの方向かも知らない。とりあえず一緒の道のようだから並んで歩いていた。


「もう、すっかり暗くなっちゃったね。月城君から送ろうって言われたけど断っちゃった」


「……月城とは生徒会長と副会長だったんだよな。やっぱり仲いいのか?」


「……気になる?」


「少しな」


「へぇー、拓実君もそういうの気になるんだ。前の中学の時もみんなに聞かれたんだよね。付き合ってるのかって。否定するの大変だったよ」


「……ということは月城と付き合ってるわけじゃないのか」


「もちろん。ただの友達。いや、友達でも無いかも。生徒会の仲間ってだけで一緒に遊んだことも無いし……」


「そうなんだ」


 なんとなく安心してしまう。


「うん。第一、月城君には恋人が居るから。他の高校の子だよ」


「そうか……てっきり、月城が有栖を狙っているのかと思った」


「無い無い。でも、別の意味で狙ってるのは確かかもね。わざわざ私を生徒会に誘いに来たんだから」


「そうだな……有栖の才能を利用しようとしているのかも」


「利用しているのはお互い様だけどね。月城君は顔が広いし、相手の懐に入り込むのは上手いから……あ、私、こっちだから」


 交差点をまっすぐ行こうとする俺に有栖が言った。本来ならここでお別れだが、別れようとする有栖を見て俺は心配になった。有栖はやっぱり美少女だ。そして有栖が曲がろうとしている道は人通りが少なく暗い。心配性かも知れないが、言うべきだろう。


「有栖……暗くなったし送っていこうか」


「え、いいよ。遠回りになるんじゃない?」


「少しぐらい歩いた方が体に良いから」


「なにそれ」


「あ、迷惑ならいいんだ……」


 俺に家を知られたりとか嫌だよな。


「迷惑なんて思ってないから。拓実君に悪いって思っただけだし……じゃあ、お願いしようかな」


「……いいのか」


「もちろん、お願いします」


「わかった」


 俺は有栖を家まで送ることにした。

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