第27話 有栖と部活
「有栖!」
「「谷崎!?」」
「有栖ちゃん!」
突然の谷崎有栖の登場に俺も含め部員全員が驚いた。
「すみません、クラスで友達にいろいろ聞かれちゃってて……たっくんも先に行っちゃって見つからないし。探したんだからね」
「あ、ごめん……って、有栖、今日は忙しくないのか?」
「え? もう選挙活動も終わったし、結果が出るまでは暇だよ」
「そうなのか……言ってくれれば良かったのに」
「ごめん、今日のことまでしか考えられなくて……」
「そりゃそうか」
「そんなことより有栖ちゃん! 立派だったよ! 演説!」
春月先輩が有栖を抱きしめる。
「あ、ありがとうございます」
「私の周りでも何人か泣いてたぐらいだよ」
「え、そうなんですか?」
「うん、心に響いたって……」
「それは良かったです。ちょっと言い過ぎたかな、って心配してたんで……」
「そんなことない、すごくよかったよ」
「そうだぞ、同じ部員として誇らしかったぞ」
八田部長も言う。
「あ、ありがとうございます」
「……俺もまあ、よかったと思うぞ。少なくとも赤嶺のやつのよりはな」
山根先輩が照れくさそうに言った。
「ありがとうございます。でも赤嶺先輩の演説にはかないませんよ。さすがです」
「そうか? あいつはうさんくさくて俺は好きになれん」
「そうなんですか……」
有栖が少し伏し目がちに言った。
「あ、でも投票は信任にしたからな。赤嶺はともかく、谷崎はすごくよかったからな」
「ありがとうございます!」
お辞儀した有栖に山根先輩は「まあ、同じ部員だしな」と照れくさそうにしていた。
「……人数あわせで入った私ですけど、ここまで言ってもらえて、入って良かったなあ、って思ってます」
「有栖ちゃん、ほんと良い子ねえ」
「……あ、でもなにかやってる途中でしたよね。すみません、邪魔しちゃって……」
「いや、いいぞ。始めたばかりだからな。西南戦争の話だが……谷崎も聞くか?」
「はい、是非!」
「よし、じゃあ始めるか」
「紅茶入れるね」
春月先輩がみんなに紅茶を入れてくれた。
有栖の食いつきが良かったから、八田部長も嬉しそうだ。いつにも増して気合いが入ったようで、解説も長くなりだした。それを聞きながら有栖は真剣にメモを取っている。俺はいつも適当に聞いていたから少し気まずくなり、俺もメモを取るようにした。
「……そして、薩摩軍の総攻撃2日前、突如として熊本城の大天守や小天守で謎の出火が起こった。これにより、多数の建物が攻撃前に燃えてしまったのだ。この焼失の原因は今でも謎だな」
八田部長の話は熊本城での火事のところまで進んだ。
「え、攻撃前に燃えちゃったんですか?」
有栖の素朴な質問に八田部長が嬉々として答える。
「そうだ。これにはいろんな説があるけど、今は自焼説、つまり攻撃される前に自分たちで燃やしたという説が有力だ」
「でも、それがほんとなら謎の出火とかじゃ無くてちゃんと命令の記録があるんじゃないですか?」
「なかなか鋭いな、谷崎君」
「有栖ちゃん、そこ聞き出したら部長は長くなるよ」
春月先輩が頭を抱える。
「あ、すみません」
「いやいや、熊本城が見える高校の歴史研究部として最高の話題じゃないか。大いに語ろう。そもそもこの出火は……」
ここからが長かった。八田部長の解説、有栖の素朴な疑問、山根先輩は忍者説を唱え出すし、春月先輩は古地図を広げ出す。当然ながら結論など出ない。歴史学者でも分からない謎なのだから。
「うーん、やっぱりよくわからないですね」
「そうだな……」
「いつも見ている熊本城だけどよく分かってないことがたくさんあるんですね」
「そりゃそうだ。熊本地震で新たに分かったことも多いからな」
2016年の熊本地震で被害を受けた熊本城だが、その復興作業で新たに判明した歴史的事実も多い。今もその復興作業は続いていて、学校の周りにも石垣に使われる石が置かれたりしている。
「そういえば、去年は新入部員歓迎とか言って、みんなで熊本城に行ったよね? 今年は行かないの?」
春月先輩が八田部長に聞いた。
「いや、実は考えては居たんだが、できれば谷崎も一緒に行きたいから予定が立たないと思っていたところなんだ」
「あ、そうだったんですか。部活の日に行くって事ですか?」
有栖が聞く。
「そうだ。つまり、放課後だな」
「だったら、私が行けそうなのは明後日ですね。投票結果が出たらまた忙しくなると思うんで……」
「よし、じゃあ急遽の予定だが明後日いくぞ」
「はい!」
有栖は嬉しそうだ。
というわけで、俺たちは明後日、熊本城に行くことになった。
「これで難攻不落の有栖ちゃんが本家・難攻不落の熊本城に行くことになったわね」
「あー、なんかそう言われてるらしいですね」
「有栖ちゃんも知ってたんだ。男子に厳しいから難攻不落って呼ばれてるわよ」
「別にそんなこと無いよね、たっくん」
「どうだろうな……」
「え、そういうこと言うんだ。私が男子に冷たいわけじゃないって、たっくんが一番知ってると思うけど……」
「まあ、俺には難攻不落って感じはないけどな」
「だよね」
有栖が俺に笑顔を見せて言う。
「でも、有栖ちゃん、白木君以外に男子の友達って居るの?」
「……いないですね」
「しかも幼馴染みって隠してるってことは、普段は教室でも話したりしてないんでしょ?」
「そうですね」
「だから、有栖ちゃんが男子と仲よさそうに話すところは誰も見たことないんじゃない?」
「そう言われると、そうかもですね。たっくんぐらいだし」
「有栖ちゃんにとっては白木君は貴重な存在だね」
「はい、いつも助けられてますし」
「ふーん、そっかあ」
春月先輩の俺たちを見る目が何か変わった気がするが、まあ気にしないでおこう。
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