第28話 黒猫
部活が終わり、俺は有栖と一緒に公園に行く。
「たっくんと何回も公園で会ってるけど、一緒に公園に行くのは初めてだよね」
「そういえばそうだな。ていうか、一緒に学校を出たのが初めてだから」
「だって二人で帰るといろいろ言われちゃいそうだし……」
今日は部活が終わって先輩達と校門を出るところまでは一緒だったから、有栖と一緒に帰ることが出来た。
「さて、今日はどの猫ちゃんが居るかな。あ、白猫と茶トラだ」
「いつものメンバーだな」
俺は茶トラを、有栖は白猫をなでだした。
「すっかり、黒猫ちゃんは来なくなっちゃったね」
「そうだな」
有栖が黒猫が来ないと泣いて以来、なんとなく俺からはその話はしないようにしていた。
ほんとにどこに行ったのだろう。元気なら良いが……
そんなことを思ったときだった。
「たっくん、あれ!」
有栖が指さす方を見ると、公園の反対側から一匹の黒猫が軽快に近寄ってきた。
「黒猫ちゃん!」
有栖が近寄ろうとするので俺は「待て!」と有栖を止める。
「え、なんで?」
「近寄ると逆に逃げる場合もあるから。こっちに来ているなら少し待とう」
「そ、そうだね……黒猫ちゃん、来てくれるかな」
だが、心配は杞憂だった。黒猫はそのまま俺たちのそばに来て、有栖の体にすり寄ってきた。
有栖は背中から黒猫をなでる。
「よかった……元気だった?」
「にゃー」と小さい声で黒猫が鳴いた。明らかにあの黒猫だ。
「あ、あれ? 首輪してる」
黒っぽい首輪だったので気がつかなかったが、確かに首輪をしている。ということは飼い猫だったのか。前は無かったはずだけど。
「ん? なんかタグがあるよ」
首輪にはタグがあって、名前と電話番号が書かれていた。
「KURO……お前の名前はクロだったのね」
「有栖、もしかしたらこの猫、家から脱走してきたのかも」
「脱走?」
「うん。本来は室内飼いなのに外に逃げてきたのかもしれない。電話してみないか? 飼い主は心配しているかも知れない」
「そ、そうだね。電話してみる」
すぐに有栖はスマホを取り出し電話をかけた。
「もしもし、すみません、今、公園に居るんですけど、猫のタグに……はい、はい、そうです、その公園です……はい、はい、わかりました。お待ちしています」
「なんだって?」
「やっぱり脱走したみたい。すぐ引き取りに来るって」
「そうか」
「クロ、脱走してきたの? ダメでしょ?」
有栖が黒猫に話しかけながら頭をなでる。黒猫は気持ちよさそうにしていた。
◇◇◇
「すみません!」
そう言って公園に入ってきたのは大人の女性だ。主婦だろうか。眼鏡に短めの髪でトレーナーにジーンズという格好だ。
「クロ、ほんとにもう……」
そう言ってその女性は黒猫を抱きかかえて言った。
「わざわざ電話してもらってありがとう」
「いえ、タグがあったので」
「クロは室内飼いだけど外が好きですぐ脱走するのよね。この間も何日も帰ってこなかったから。ようやく見つけて首輪付けたのよ」
ということは俺たちがこの公園で会ってたのは脱走していたときだったのか。
「でも、隙を見てまた逃げちゃって……今度はすぐ見つかって本当に良かった。あなたたちのおかげよ」
「いえ……」
「お礼するからちょっとうちに寄っていかない? 少し歩くけど近いよ」
「あ、そんな……」
「ちょうどチーズケーキがあるから。是非来て」
俺と有栖は顔を見合わせたが、有栖が頷いた。
「じゃあ、寄らせていただきます」
「うん! こっちよ」
その女性はクロを抱きかかえたまま歩いて行った。
◇◇◇
「「お邪魔します」」
俺たちはその女性の家に上がる。公園から少しだけ離れていたちょっと古めの一軒家だ。人間からすれば近い範囲だが、猫にとっては結構距離がある気がする。クロはここから歩いて来たのか。
「あ、自己紹介がまだだったわね。私は
「谷崎有栖です」
「白木拓実です」
「有栖ちゃんに拓実君か。今回は助かったよ。ちょっとここでくつろいでて」
そう言って、クロを放した。
俺たちはリビングでテーブルを囲んで座る。有栖はクロの背中をなで始めた。
「コーヒーで良かった?」
「はい」
「大丈夫です」
堂道さんはコーヒーとチーズケーキを持って戻ってきた。
「あら、クロは有栖ちゃんにすごくなついてるのね」
「はい、いつもあの公園でなでてたんで……」
「そうなんだ。脱走してたときになついたのね。ようやく捕まえたと思ったのに、またすぐ逃げ出して……」
「私たちも黒猫が公園から居なくなったので、どこに行ったんだろうねって心配してたんです」
「なるほどねえ、そういうことか。クロに会いたくなったらいつでもおいで」
「ありがとうございます!」
「それにしても最近の子はスタイルいいわね。有栖ちゃん見てびっくりしたよ。こんな子、私の学生時代には居なかったよ。拓実君、大事にしなさいよ」
「あ、はい……と言っても有栖とはただの友達ですけどね」
「あ、そうなんだ。二人で居たからてっきり……ごめんなさいね」
「いえ……」
「でも、高校時代の友達って大事だからね。私も結婚してからは友人付き合いが減ったけど、高校時代からの友人とはたまに会ってるし」
「そうなんですね。なんか安心しました。高校卒業したらお別れってなったら悲しいな、って思ってたところなので」
有栖が言う。そういえば、『そのうち、たっくんも居なくなるんじゃ無いか』とか言って泣いてたか。堂道さんの言葉を聞いて少し安心したかな。
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