第49話 関係

 今週の放課後は部活も生徒会もない。俺も有栖も早く帰ることが出来る。こんなことは久しぶりだ。


 だが、俺と有栖は特にどこかで会うという約束もしていなかった。でも、公園に来るんじゃないかと思い、俺は真っ先に公園に来ていた。


 今日公園に居たのは茶トラと三毛猫だ。レアキャラの三毛猫が居るのはやっぱり時間がいつもより早いからだろうか。


 しばらく猫をなでていると有栖が来た。


「あ、今日は三毛が居るんだ」


「そうだな。レアだぞ。しっかりなでておけ」


「うん……」


 有栖は三毛猫をなでだした。


「でも、こうやってなでていると今日の昼休みを思い出すね」


「そ、そうだな……」


 今日の昼休み、俺は思わず有栖の頭をなでたんだった。


「なんか私が猫になった気分だったよ」


「そ、そうか……」


「また、なでてもらいたいなあ」


「いつでも、いいぞ」


「じゃあ、また明日、お昼休みにお願いできるかな」


「ああ、大丈夫だ」


 しばらく猫をなでていると有栖が言った。


「来週、中間テストだね。たっくんは成績どうなの?」


「俺はあんまり良くないな」


「そっか……じゃあ、この期間はもしかして勉強したい?」


「したいって事は無いけど、した方がいいとは思ってる」


「そっか……勉強したいからすぐ帰るって言われたら、ちょっと寂しいなって思っちゃって……」


「それはないな。でも、赤点は取らないようにしないと」


「そんなに悪いの?……だったら、一緒に勉強会しようよ」


「勉強会か……まあ、やってもいいけど」


 有栖は学年トップクラスの成績だし、有栖と勉強できれば成績は上がりそうだ。


「でも、どこでしようか。学校は無理だし、見られないようにするならどちらかの家だよね」


「帰る時間を考えると俺が有栖の家に行くのがいいだろうけど」


「でも、お父さんが早く帰ってくる日もあるし。うーん……これはお願いするしか無いかな」


「お願い?」


「うん。幸子さん」


 堂道幸子さんか、黒猫クロの飼い主だ。幸子さんの家は学校から結構近いし、住宅街の入り組んだところで他の生徒にも見られにくい。


「迷惑かも知れないけどちょっと聞いてみる」


 有栖はメッセージを送った。すると、すぐに返事が返ってきた。


「いいって。是非来てって。今からでもいいってよ」


「そうなんだ」


「ちょっと今から行ってみようよ」


「そうだな……」


 勉強会について詳しく話しておいた方が良いだろう。


 俺たちは公園を出て、幸子さんの家に向かった。


「いらっしゃーい、仕事中だからあんまり相手できないけどどうぞ」


「すみません、お邪魔します」


 俺たちはリビングに通された。クロが寝ている。


「おやつも無くてごめんね」


「いえ、お構いなく。勉強に来ただけなんで」


「私はあっちの部屋で仕事してるから、勝手に勉強してていいよ。あ、エッチなことは遠慮してね」


「しないですから」


「冗談冗談、じゃ、頑張って」


 幸子さんは去って行った。


「じゃあ、たっくん、始めようか」


「そうだな……」


 俺は有栖から数学を教わりだした。


「……わかった?」


「たぶん……」


「だったらこの問題やってみて」


 俺は問題を解く。


「お! 正解! 偉い偉い」


 有栖は俺の頭をなでた。


「有栖、あんまりそういうのは……」


「えー、いいでしょ。私もなでてもらったし。私もなでたいなあ」


 甘えたように言う有栖に俺は了承するしかなかった。

 しばらく問題を解きながら正解しては頭をなでてもらうことが続く。


 そのとき、ドアが開いて幸子さんが入ってきた。


「おー、やってるねえ……って、今頭なでてなかった?」


「はい、たっくんが正解したので」


「へぇー……そういうスキンシップはやってるんだ」


「はい……今日は私がたっくんに頭なでてもらって嬉しかったんで」


「そ、そう……えーと、ちょっといいかな。二人は付き合ってないんだよね?」


「はい、そうですけど」


「ただの友達でそこまでやるのはちょっと違和感あるかな」


「そうですか……」


「他にそういうスキンシップはしてるの? ハグとか」


「あ、はい。ときどき」


「はぁ……」


 幸子さんは頭を抱えた。


「なんですか?」


「いや、さすがにこれはね。そういう関係ってのははっきりさせておいた方が良いと思うよ」


「と言いますと?」


「いや、幸子さん。俺は分かってますので」


 分かってなさそうな有栖に代わって俺は言った。


「拓実君は分かってるみたいね」


「はい、近いうちに何とかしようと思っています」


「そっか、だったら余計なお世話だったね」


「いえ、自分の決断に確信をくれたので助かります」


「うんうん、頑張りなさいよ」


「はい、ありがとうございます」


「たっくん……何の話? 私にも教えてよ」


「そのうちな」


 そう、俺はこの関係をはっきりさせることを考えていた。



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「 三つ編み眼鏡の文学少女好きな俺の前に理想の女子が現れた! と思ったけどなんか違う」の公開を開始しました。

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