第39話 新執行部
いつもは眠い午後の授業も、昼休みに有栖と話したせいか、目が冴えていた。そして、放課後になる。有栖はすぐに教室を出て行き、杉本さんは俺の席に来た。
「じゃあ、白木君、行こうか」
「そうだな」
立ち上がる俺を二宮が不審な目で見る。
「なんだよ」
「いや、仲よさそうだなって」
「そういうのじゃないからな。仕事だよ」
そう言って教室を出た。
「……わざわざ俺の席に来る必要は無いんじゃないか?」
俺は杉本さんに聞いた。
「今日だけだよ。今後は一人で行ってね」
「なんで今日だけ……」
「白木君は私と友達だから生徒会に入った、という偽装だよ。有栖と仲いいわけじゃないって感じにしないと」
「それはありがたいけど……杉本さんに変な噂が立つかも知れないぞ」
「私は気にしないし。今、好きな人とか誰も居ないからね。それに男よけにもなるから」
「男よけ?」
「うん。告白とかされるの面倒だから。これでも結構されるんだよ?」
「疑っては無いけど……」
杉本さんはショートカットのボーイッシュ美人だし、人気があるのは理解できる。
「まあ、今は友人の恋を応援する方が楽しいし……」
「恋?」
「あ、ごめん……聞かなかったことにして」
やはり、杉本さんは有栖が俺に恋していると思ってるんだろうな。
「杉本さんの勘違いじゃないか?」
「そうとは思えないけどね。最近は、たっくん、たっくん、ばっかり言ってるから……」
「そ、そうなんだ。でも、まさかな……」
「私もまさかって思ったけどね……でも、白木君もその気はあるんでしょ?」
「それはまあ……」
「じゃあ、コクっちゃいなよ」
肘で俺をつつく。
「や、やめろよ」
「このこのっ! うらやましいやつ!」
「やめろって」
そう言い合いながら廊下の角を曲がると有栖が居た。
「たっくん、何やってるのかな?」
冷たい目で俺を見ている。
「有栖……」
「あ、ごめん! ちょっとふざけてただけだから」
「碧唯、生徒会前にあんまり変なことしないように」
有栖が低い声で言った。
「ごめん、ごめん。有栖、ちょっと恐いよ」
「碧唯がたっくんに変なことするからでしょ」
「だから、ごめんって。そういうのじゃないから。有栖のことでからかってただけ」
「私の?」
「そうだよ。私と白木君は有栖のことしか話してないから。当たり前でしょ」
「そ、そっか……」
「もう……白木君のことになると性格変わるんだから」
「変わってないし……」
有栖がもじもじし始めた。俺は慌てて言う。
「有栖、そろそろ行かないと」
「そ、そうだね。行こうか」
「なんか、私と話すときの声と全然違うんだけど」
「そんなことない! 碧唯も行くよ」
有栖が扉を開け、俺たちは生徒会室に入った。
既に新執行部の役員達は作業を始めていた。
「やあ、白木君に杉本君。じゃあ、ここで新執行部の役員を紹介しておこうかな。私と有栖は知ってるよね。じゃあ、あとよろしく」
赤嶺会長が投げやりに言う。最初に立ち上がったのは月城だった。
「1年の
次にショートボブの眼鏡の女子が立ち上がった。
「2年の
その横に居るもう一人のショートボブの女子が立ち上がる。
「同じく2年の
同じ仲原でよく似ている。ということは……と思ったところで赤嶺会長が教えてくれる。
「この2人は双子の姉妹だ。リホリサと覚えるといい。里穂は学年トップの成績、理紗はスポーツ万能だぞ」
「しかし、双子だけあってよく似てますよね。見分けが付くか自信が無いです」
杉本さんが言う。
「大丈夫、襟を見て」
里穂先輩が言った。制服の襟には小さく、RIHO、RISAとそれぞれの名前が入っていた。これで見分けるしか無いのか……
そして最後に残った一人が立ち上がった。体が大きい男子だ。
「俺は2年の
「元柔道部、確かに強そうですね」
杉本さんが言う。
「半沢君は生徒会のボディーガードも兼任ね。頼りにしてるわ」
里穂先輩が言う。
「お、おう……」
半沢先輩は里穂先輩の言葉に照れていた。気は優しくて力持ち、って感じか。
「紹介は終わったようだな。じゃあ、作業を始めてくれ」
会長の言葉にそれ以外のメンバーは仕事を始めだした。
「で、何をやればいいんだ?」
俺は有栖に聞く。
「紙の資料が大量にあるのよ。それを私たちの生徒会ではデジタル化したいから大量に入力する必要があるの」
そう言って、後ろの棚からファイルをどさりと俺の前に置いた。
「特に台帳類ね。これを入力していって欲しいんだ」
「わかった。それぐらいならできるな」
俺と杉本さんで手分けして作業を行っていった。
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