第38話 生徒会室

 翌朝、俺が席に着き、隣の二宮と話していると、そこに杉本碧唯が来た。


「し、白木君……火曜と木曜は放課後暇だよね」


 なんか棒読み感がある話し方になっている。


「うん、そうだけど」


「じゃあ、ちょっとの間、生徒会、手伝ってくれないかな?」


 なるほど、朝話すと言ったのはこれか。杉本さんが軽い感じで言ったが、顔がこわばっている。


「いいよ、わかった」


「お昼に打ち合わせあるからお弁当持ってきて」


 杉本さんは去って行った。


「おいおい、お前、生徒会手伝うのかよ! ずいぶんあっさり返事してたな」


 聞いていた二宮が言う


「仕方ないだろ、杉本さん困ってるようだったし」


「そんなに困ってたか? なんだか軽い感じだったが……」


「困ってたんだよ。そういうことだから、しばらく昼休みはちょっと居なくなる」


「そうか、わかったよ」


 クラスの他のやつも見ているようだったし、俺が自然に生徒会に行けるよう仕組んでくれたんだな。


◇◇◇


 昼休み。俺のところに杉本さんが来た。有栖は先に行っているようだ。


「じゃあ、行こうか」


「うん」


 一緒に教室を出る。しばらくして杉本さんが言った。


「私の演技、自然だったでしょ。疑われてなかったよね」


「うん、たぶん大丈夫……」


「よかったあ。かなり緊張してたから」


「そうみたいだったね」


「え!? 気がついてた?」


「だって、顔がこわばってたから」


 その時の顔を思い出し少し笑ってしまう。


「もう!」


 杉本さんが俺の背中を叩いた。


「アハハ、ごめんごめん」


 笑いながら歩いて行き、廊下の角を曲がると、そこに有栖が居た。


「たっくん、ずいぶん楽しそうね」


 すごく低い声で言う。


「え!?」


「あ、有栖、違うからね……誤解しないでよ、有栖のためにやってるんだから」


 杉本さんが慌てて言う。


「……そ、そうだよね。ごめん…・・じゃあ行こうか」


 俺たちは三人で生徒会室に入った。ここは元々は空き教室。だから通常イメージするような生徒会室よりも広い。今は旧執行部と新執行部の両方が居てもまだ机と椅子は余っていた。


「有栖、手伝ってくれるのは、その二人かい?」


 赤嶺新会長が有栖に聞いた。


「はい。みなさん、今日から作業を手伝ってくれる私の友人、杉本碧唯と白木拓実です」


「1年1組の杉本碧唯です! よろしくお願いします!」


「同じく1年1組の白木拓実です。よろしくお願いします」


 元気な杉本さんと比べ俺の挨拶が暗いことは自分でも分かったが、仕方ない。


「よろしく。しかし、驚いたな。谷崎さんに男子の友人が居たなんて」


 そう言ったのは月城だ。有栖と中学校の時に生徒会長・副会長の関係だった男子。


「いえ、白木君は碧唯の友人で。私が碧唯に相談したら推薦してくれました」


「そうなんだ。杉本さんの友人か」


「そうです。でも、私も小さい頃から白木君は知っていて、幼馴染みのような関係で信頼できますから、私も了承した次第です」


 よくそんなに設定がすらすら出てくるものだ。


「そうか、ここは男子が肩身が狭いから同じ1年の男子が入るのは嬉しいよ。よろしくな」


「こちらこそよろしく」


 確かに会長。副会長は女子だし、全6人の新執行部の男子は月城ともう一人しか居ない。


「本当は新役員の紹介もしたいところだが昼休みは時間が無い。こちらは食べながら引き継ぎを始めるから、二人は資料に目を通しながら聞いておいてくれ」


 旧執行部と新執行部で向かい合わせに座る。今日のテーマは文化祭のようだ。俺と杉本さんは資料を読みながらただ聞いているだけだが、有栖は的確に質問し、まるで新執行部の代表のような感じだった。ちなみに赤嶺新会長はほとんど口を開くことは無かった。


「じゃあ、キリがいいところで今日はここまでにしておこうか」


「そうですね」


 現会長の言葉に有栖が答え、今日の引き継ぎが終わった。旧役員は生徒会室を出て行く。新役員の方もほとんど帰っていった。


 しかし、有栖は帰ろうとしない。俺と杉本さんも残っている。しばらくすると赤嶺会長と有栖が俺たちのところに来た。


「白木君、杉本さん、ようこそ生徒会新執行部へ」


 赤嶺会長が言う。


「「よろしくお願いします」」


「今日は顔見せ程度だったけど、放課後は作業にも参加してくれるんだろ?」


「はい」


「じゃあ、また放課後会おう」


 赤嶺会長は去って行った。

 これで生徒会室に残るのは俺と杉本さんと有栖だけだ。


「たっくん、ありがとうね。碧唯も」


「いや、いいよ」


「私はおまけだけどね」


「もう、碧唯はすぐそういう……」


「それじゃ、お邪魔なんで外で待ってるねえ」


 杉本さんは生徒会室の外に出て行った。2人にしてくれる必要は無いと思うんだけどな。


「たっくん、やっと学校で話せる。なんか嬉しい」


 生徒会室で2人きりになって有栖は言った。


「そうだな……」


 学校で有栖と会話するのは何か変な感じがするな。有栖も同じようで、少しもじもじしている。有栖には珍しいことだ。


「……今日はありがとね、生徒会室に来てもらって。嫌じゃ無かった?」


「別にいいよ。嫌じゃ無いから」


「コミュ障って言ってたけど、ちゃんと話せてたよ」


「そうかな。杉本さんのマネしてただけだよ」


「そうなんだ……ほんと、いつもたっくんにはお世話になってばかりで、今度お礼するから」


「そういえばそんなこと言ってたな」


「日曜日はたっくんの夕食担当の日なんでしょ? 姫菜ちゃんから聞いたよ」


「そうだけどどうして?」


「私が作りに行くから」


「え!? 夕食を?」


「うん。それが今回のお礼。やっとたっくんのお世話できるよ。何食べたい?」


「え? えっと……そうだな……」


 急に言われて俺は何も思いつかなかった。


「有栖が得意な料理でいいよ」


「そっか。じゃあ、カレーかな」


「カレーか、いいな」


 そのとき、扉が小さく開く。杉本さんだ。


「お楽しみのところ悪いけど、そろそろ時間だよ」


「もうか。仕方ないね。ごめん! たっくん、先に教室帰ってて」


「わ、わかった。じゃあ、またな」


「うん!」


 慌てて教室を出る。外に居た杉本さんと二人で教室に戻る。その途中で杉本さんが小声で話しかけてきた。


「なになに? 有栖の手料理食べるの?」


「聞いてたのかよ……」


「有栖には許可もらってるから。聞こえるかもよって。その代わり、二人の密会を誰かが邪魔しないように私が見張ってるんだよ」


「密会って……」


「秘かに会ってるんだから密会でしょ。感謝してよね」


「確かに。ありがとう」


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