第7話 帰り道
少し暗い道を有栖と一緒に歩く。すぐに周りは暗くなっていき、やはり送って正解だったと思う。
「拓実君って心配性?」
有栖が俺に聞いた。
「そうかもな。歴史の本とか読んでるとちょっとしたことでひどい事態になることが結構ある。だから、悪い方に考えがちだ」
「歴史の本か。いつも読んでるの、そういう本なんだ」
俺が休み時間に本を読んでいるのを有栖は見ていたのか。
「まあな。だから、危険は常に考えておいた方がいいぞ」
「そうだけど……」
「何が起こってもおかしくない世の中だ。例えば……」
俺は帰り道の危険性をいろいろ説明したが有栖は笑って聞いていた。
「拓実君、よーくわかったから。師匠に怒られないように明るいうちに帰るね」
「うん、そうしろよ。師匠の言うことを聞いておけ」
「ありがとう、拓実君。うち、ここだから」
そこはこのあたりではよくある感じの一軒家だった。
「そうか……じゃあ、有栖。また明日な」
「うん、今日はありがとうね。また何かあったらメッセージ送るから」
「わかった」
「拓実君も気を付けて」
「おう!」
そう言って帰ろうとしたときだった。
「ちょっと待って!」
有栖とは違う声がした。振り向くと有栖の家の玄関が開いて誰かが覗いている。
「お、お母さん!」
有栖のお母さんか。これは誤解の無いように説明しておいた方がいいな。
俺は慌てて有栖の家の玄関に向かった。
「初めまして。有栖さんのクラスメイトの白木拓実です」
「拓実君ね。初めまして、有栖の母の
「はい、遅くなったもので。でも、有栖さんは遊んでいたわけでは無く、生徒会についての話をされていたそうで……」
「そうなのね。有栖、また生徒会に入るの?」
「考え中。もういいでしょ。拓実君、またね」
「だーめ。拓実君。すこーし、お話聞かせてもらえるかな。時間ある?」
「お母さん!」
どうするべきか……だが、有栖は嫌がっているようだな。俺はちらりと有栖を見た。
「……拓実君、ごめんね。お母さん、言いだしたら聞かないし。時間は取らせないようにするから」
これは寄っていけということか。
「……じゃあ、少しなら」
「よし! 上がって上がって!」
俺は帆菜さんの言うがままに谷崎家に上がることになった。
「さ、ここ座って」
案内されたテーブルに座る。すると、そこから見える場所にあるソファーに女の子が寝転んでスマホを触っていた。背は小さいが、有栖の面影がある。たぶん妹だな。その子が俺に気がついた。
「お母さん! この人誰?」
「有栖の彼氏よ」
「えー! お姉ちゃん、彼氏できたの!?」
「ち、違うから! 友達! お母さん、いい加減なこと言わないで」
有栖が慌てて否定する。
「でも、家まで送ってもらう男子なんて初めてでしょ?」
「初めてじゃ無いし……」
「あらそうなの。気がつかなかったわ」
さすがに初めてじゃ無いか。
「あ、拓実君、誤解しないでね。月城君に送ってもらったことがあるだけだから」
「そういうことか」
「お姉ちゃん、紹介してよ」
先ほどソファーに寝ていた妹が近づいてきた。
「クラスメイトの白木拓実君。で、こっちは妹の
「ど、どうも……白木拓実です」
「妹の結梨だよ。拓実さん、お姉ちゃんのこと、好きなの?」
「こ、こら! 結梨!」
「えへへ」
結梨ちゃんは逃げていった。
「もう……ごめんね。拓実君」
「いや、大丈夫だよ。結梨ちゃん、有栖によく似てるな」
「そうかな。自分じゃ似てないって思うけど」
そこにお母さんがケーキとコーヒーを持ってきた。
「コーヒーで良かったかしら」
「あ、はい。ありがとうございます」
「それにしても有栖。拓実君は友人って事で良いのよね」
「そうよ」
「でも名前で呼び合ってるんだ」
「別にいいでしょ。私、友達には
有栖が頬を膨らませ、拗ねた表情を見せる。教室では見たことが無い表情だ。
「でも有栖も『拓実君』って呼んでるんでしょ」
「私だけ名字で呼ぶのは変だからよ」
「へぇー……」
「誤解しないでよね。ほんとに友達なんだから!」
「あ、そう。ごめんね、拓実君。有栖が男の子と仲良く話してるの初めて見たから……」
「い、いえ……」
「でも、拓実君ってなんか言いにくくない? あ、たっくんって呼んでいい?」
「お母さん!」
「あ、なんでもいいですよ」
「そう! じゃあ、私はたっくんって呼ぶね」
「ちょっと、お母さん! 勝手に変な呼び方しないで」
「変じゃないわよ、ねえ」
「あ……はい」
その後はお母さんの「たっくん」呼びが続き、有栖はそれがかなり不満のようだった。
「それで、たっくんと有栖はどうして仲良くなったのかな?」
「公園で偶然会って、猫のなで方を教えてもらっただけよ」
「猫のなで方……」
「だって、猫は好きだけど触った事なんて無かったから」
「まあ、うちは私も結梨も猫アレルギーだからね。有栖は違うみたいだけど」
「そうなんですね」
「うん、だから、猫には近づかないようにしてきたんだ」
だから、猫に慣れてなかったのか。
そんな話をしていたら、いつの間にか一時間近く谷崎家に居ることになり、俺は慌てて家に帰った。
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