第17話 部活動

 翌日、登校すると既に有栖は杉本碧唯や山鹿成美と何か話している。昨日のことを話してるんじゃないよな。心配になりながらも俺は出来るだけ見ないようにして自分の席に着いた。


 しばらくすると有栖は杉本碧唯とともに教室を出て行く。そのときに俺をチラッと見た気がした。


「いやあ、やっぱりアリス様は気品があるよなぁ」


 颯爽と歩く有栖を見ていた二宮が言った。


「確かにな」


 昨日「たっくんのお世話、たっくんのお世話」と言いながらお好み焼きを焼いていたとは思えない。


◇◇◇


 放課後。今日は月曜日。歴史研究部の活動がある日だ。俺は部室に向かった。


「良く来たな! 白木君!」


 机の上に座っていた八田部長が飛び降りて歓迎してくれる。


「それで入部は決めたのか?」


「はい、よろしくお願いします」


 書いてきた入部届を出す。


「おー! よろしく!」


「白木君、私もよろしくね」


「春月先輩、よろしくお願いします」


 今日も部活動は八田部長、春月先輩と俺の3人か。

 春月先輩がみんなに紅茶を入れてくれた。


「じゃあ、改めて自己紹介しておこうかな。俺は部長の八田大悟はっただいご、三年生だ。専門分野は近代の戦史だ」


「せんし?」


「そう。戦争の歴史だな」


「はっきり言って軍事オタクよ」


 春月先輩が言う。


「なるほど……」


 良く見ると部室には戦車や軍艦のプラモデルがいくつか置いてあった。


「戦争を知らないと平和は語れないぞ。白木はそのあたりはどうだ?」


「人並みには押さえているつもりですが、詳しくは知りません」


「なるほど、人並みか。じゃあ、バルジ大作戦ぐらいは知ってるって程度かな」


「ばるじ? なんですか?」


「……はぁ……こりゃ、基礎から始める必要がありそうだな、まったく……」


「す、すみません!」


「白木君、真に受けなくて良いから。普通の人はバルジなんて知らないの」


「ナッツ!」


 なっつ? あ、戦車の部活のアニメで言ってた気がするが、意味はよく分からない。


「もういいから。じゃあ、次は私ね。改めまして、春月美羽はるつきみう、二年生。専門は幕末ね」


「幕末ですか。いいですね。僕も好きです」


「そうなの? どのあたりが好き?」


「えっと……坂本龍馬とか西郷隆盛とかですかね」


「はあ?」


 春月先輩の機嫌が突然悪くなった。


「……あの、なんか変なこと言いましたかね」


「気にするな。美羽は幕末が好きって言ってるが、新撰組が好きなだけだ」


「し、新撰組ですか……あの、刀で人を斬ってた派手な服の……」


「そうよ、 近藤勇、土方歳三、沖田総司! 彼らに魅せられたのよ」


「お前が魅せられたのは漫画の新撰組だろ」


「いいでしょ! 漫画でも。すっごく尊いんだから」


「尊い?」


「そうよ、彼らの関係性が尊いの」


「お前が尊いのは二次創作のBLだろ」


「ちょ、ちょっと! 新入部員の前でそういうこと言わないで!」


 なるほど……


「それにしても、先輩達、仲いいですね」


「「どこが!」」


「いや、息ぴったりですし。もしかして――」


「「付き合ってない!」」


「いや、まだ何も言ってませんし……」


「はぁ……よく言われるのよね。私と大悟、付き合ってるんじゃないかって」


 春月先輩からしても八田部長は先輩なのに名前を呼び捨てだ。でも、付き合ってはいないのか。


「俺たちはそういう関係じゃないからな。ただの腐れ縁。幼馴染みだ」


「なるほど……」


 幼馴染みか。こっちの関係の方がよっぽど『尊い』気がするけどな。


「それにしても部員ってもう1人居るんですよね?」


「居るわよ。私と同じ二年生が」


「幽霊部員ですか?」


「感染症にかかって休んでるだけよ。次回は来ると思うから」


「そうですか……」


「そういえば、白木君、他の一年生は誘ってくれた?」


 すっかり忘れていた。


「いえ、まだです……」


「そう、是非お願いしたいんだけど。今ね、部員4人でしょ。5人居ないと廃部になっちゃうの」


「は、廃部!?」


 入ったばかりなのに……


「そう。廃部となると同好会に格下げ。予算ゼロ、部室無しになるから」


「え、それはさすがに……」


「だから是非お願い。私たちもチラシ配りとかはしてるけど……」


「わ、分かりました」


 有栖に頼むわけには行かないし、二宮に声を掛けてみるか。


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