第16話 ランチ
杉本碧唯が去ったあとも、俺と有栖はカフェにしばらく居た。
「はぁ……ごめんね、たっくん。碧唯がうるさくて……」
「それは別にいいけど。でも、普段は『白木君』って呼ぶように練習しておかないと」
「うん……完全に『たっくん』になってた」
「それじゃそのうち学校でもばれるぞ」
「だよね。私、こういう呼び方切り替えるとかの経験無くて……ほんと注意しないと」
有栖は今までも隠れて交際とかは無さそうだな。
「で、これからどうする? 何か食べるのか?」
「うん……たっくんさえ良ければ、一緒にランチできないかなって思ってたんだ。お礼も兼ねて」
「どこか行きたい場所とかあるのか?」
「うん……
お好み焼き屋か。場所は近いけど、若い人やカップルが多い店じゃないか。
「あそこは高校生も多いぞ。見られてしまう可能性が高い」
「そ、そっか……」
「でも、
少し距離はあるがたいしたことはない。
「そうなの? じゃあそこに行こう!」
俺たちは上通りの大文字まで歩いた。人が少ない裏道を選んだので、知り合いに遭遇することは無かった。
店に入り、注文すると具材がすぐに来た。ここは客自身が鉄板で焼くスタイルだ。
「たっくんのも焼いてあげるね」
「おい、俺のは自分で……」
「大丈夫だから。今日はお礼だし」
有栖が張り切って俺のも焼いてくれる。
「ふふっ、なんかこうやって、たっくんのお世話したかったんだよねえ」
「お世話って……」
「だって、いつも相談に乗ってもらって私がお世話になってるから」
「そうか?」
「そうだよ。だから、たっくんのお世話できて何か嬉しい」
有栖は上機嫌だ。「たっくんのお世話、たっくんのお世話」と言いながら焼いている。なんか恥ずかしいが、有栖が嬉しいならいいか。
綺麗にお好み焼きをひっくり返し、次第に両面が焼けてきた。
「そろそろかな。切り分けるね。はいどうぞ」
有栖が皿に入れてくれる。
「『あーん』ってしようか?」
「そんなのしたらほんとにカップルだろ」
「そ、そっか……」
俺は自分で食べた。うん、美味しい。ここはマヨネーズが美味しいんだよな。
有栖も自分のを食べ始めた。
「うん、美味しい! さすが私」
まあ、確かに焼いたのは有栖だけど。
「有栖は料理も得意なのか?」
「うーん、まあまあかな。でも、お弁当は自分で作ってきてるよ」
「そうなんだ」
「あ、たっくんも作ってきて欲しい?」
「なんでだよ。そういうのは恋人にするんじゃないのか?」
「そう? 別に私は作ってきてもいいけど」
「うちは親が作ってくれるし、今のところ大丈夫だ」
「そっか……食べたくなったら言ってね」
「……でも、有栖と一緒にお昼を食べたことも無いんだぞ」
「そういえばそうか。これが初めての一緒の食事だっけ」
「いや……有栖の家でケーキ食べたな」
「あ、そうだったね。そういえばお母さんがまたたっくんを連れてこいってうるさくって……食事をご馳走したいって言うのよ」
有栖の家で食事か。ハードルが高いな。
「結梨もたっくんに会いたがってるし……今度来れないかな?」
「うーん、食事か。行きたいけど難しいかもな」
「どうして?」
「うちは親が遅いことが多くて……夕飯が妹と二人ってことも多いんだ」
「そうなんだ」
「だから妹を一人には出来ないから」
「それはそうだね……」
「ごめん」
「うーん、妹ちゃんか。そうだな……わかった。私に考えがあるから」
「え?」
「たっくんには生徒会の時にいろいろ作戦を考えてもらったし、今度は私の作戦を披露しようかな。まあ、見ててね」
有栖は何か企んでそうだ。スマホを何か操作している。
だが、悪いことじゃ無さそうだし、有栖に任せるか。
◇◇◇
「ただいま」
有栖と別れ、2時すぎには家に戻る。すると妹の
「おかえり、お兄ちゃん。今、私の友達が来てるから部屋行ってて」
「ん、わかった」
姫菜の友達か。邪魔しないようにしないとな。そう思い、自分の部屋に行こうとしたときだった。
「お邪魔してます」
声が聞こえ振り向くとそこに居たのは有栖の妹の結梨ちゃんだった。
「え!?」
そういえば、姫菜のこと教えたけど、もう友達になったのか。
「えっと、ゆ――」
俺が話しかけようとすると、結梨ちゃんは小さい声で「シーッ」と言って指を口に当てた。内緒にしろってことか。
俺は頷いて、自分の部屋に向かった。
部屋に入り、有栖からもらった俺の時計を開け、枕元に置く。うん、いい感じだ。
◇◇◇
夕方になり、姫菜が俺の部屋に来た。
「お兄ちゃん、もう友達帰ったから大丈夫だよ」
「おう、そうか」
「あ、それと次の土曜に友達の家に食事に行ってくる」
「え? 友達って今の友達か?」
「うん、そうだけど……」
これが有栖の作戦っぽいな。
「お兄ちゃんは勝手になんか食べてて」
「うん、わかった」
もしかして姫菜も一緒に食事ってことか……
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