第47話 お世話
「じゃあ、まず洗濯かな」
有栖が言う。
「え!?」
お世話ってそういうことか。
「あ、案内します」
姫菜が立ち上がった。
「ありがとう、姫菜ちゃん」
洗濯機のある場所に有栖を連れて行く。慌てて俺もついていった。
「お兄ちゃんのはここにまとまってます」
「うん、あ、たっくんの制服だあ」
「有栖、それはちょっと……」
「なに? 今日はお世話するって言ったでしょ!
有栖が俺をにらむ。
「う、うん……」
「たっくんは部屋に居て。私は忙しいんだから」
「わ、わかった……けど」
「けど?」
「下着は洗わないよな?」
「もちろん!」
はぁ、良かった。
「もちろん、洗うよ!」
「はあ? ちょっとそれは……」
「何? 早く部屋行ってて!」
有栖がギロリとにらむ。有栖の決意は固いようだ。俺はあきらめて部屋に戻った。
仕方なくスマホでも見ていると、しばらくして有栖が部屋に来た。
「たっくん、じゃあ、次は掃除ね」
「掃除!?」
「うん、たっくんの部屋掃除するから。やっぱり散らかってるなあ。男の子の部屋だ」
そう言って机の上を片付けだす。
「ちょ、ちょっと有栖……」
「あ、もしかして見られて困る物でもあるんでしょ」
「それはないけど……」
「ほんとかなあ」
そう言いながら有栖は片付けを続けていった。そして、ベッドの脇にある物に目をとめる。
「あ、これって……」
それは目覚まし時計だ。有栖にお礼として買ってもらったものだった。
「使ってるんだ」
「当たり前だろ。有栖にもらった大事なものだからな」
「うれしい……」
有栖はその目覚まし時計を胸に抱きしめた。目覚まし時計が胸に埋もれている……うらやましい。
「たっくんをいつも起こしてくれてありがとう」
有栖は目覚まし時計を置き、まるで猫のようになでながらお礼を言った。
「さて、あとは掃除機だな。姫菜ちゃん、掃除機どこだっけ。たっくんはリビングに行ってて」
「う、うん……」
俺は仕方なくリビングに行った。そこには結梨ちゃんが居た。
「拓実さん、お姉ちゃん、張り切ってますね」
「そうだな……」
「すっごく楽しそう」
「そうか?」
「うん。さっきも『たっくんのお世話、たっくんのお世話』って歌ってましたよ」
また、その歌か。他の人に聞かれるとかなり恥ずかしい……
そのうち、掃除機の音が聞こえてきた。姫菜がリビングに戻ってくる。
「有栖さん、良いお嫁さんになりそうだね」
「お姉ちゃん、家事得意だからねえ」
「すごいなあ、勉強もスポーツも出来るんでしょ。それにあの美貌で生徒会副会長なの。完璧超人じゃん。欠点あるの?」
「うーん……欠点は世間知らずで子どもっぽいところかな」
「あー、確かにそういうところあるね」
「うん。だってさっきも『たっくんのお世話、たっくんのお世話』って歌ってたし」
「なにそれ。めっちゃかわいい」
姫菜にまでバラされてしまった。
「それにしても我が兄ながら、釣り合わないと思うけどなあ」
「そんなことないよ。拓実さん、かっこいいし」
「いやいやいや、それは無い」
「そうかなあ……」
本人の目の前で何を言い出すのやら。まあ、でも姫菜の言う方が正しく思えるけどな。
そのうち、掃除機の音がやんで、今度は拭き掃除を始めたようだ。俺も手伝おうと部屋に行く。
「いいから、たっくんは座ってて」
「……わかった」
結局リビングに帰ってきた。
掃除が終わると有栖はようやくリビングに座った。
「ふぅ……あ、そろそろおやつの準備しなくちゃ」
「おやつ!?」
「うん、クッキー作る準備してきたし」
有栖は今度はキッチンに行きクッキーを作り出した。
「私も手伝う!」
「私も!」
妹たちも一緒になって作っている。俺も何か手伝おうとしたがまた「たっくんは座ってて」とにらまれてしまった。
クッキーが出来上がり、有栖は全員分のコーヒーを入れ、ようやく落ち着いた。みんなでクッキーを食べる。
「有栖さん、美味しいです!」
「よかった、姫菜ちゃんの口に合って……たっくんは?」
「うん、うまいぞ」
「よかった……じゃあ、次は……」
今度は有栖が洗濯籠を抱えてやってきた。
「さてと、畳むか」
有栖が俺のパンツを持って畳もうとする。
俺は慌てて有栖のところに行き、パンツを奪おうとするがかわされてしまった。
「何よ。もう見ちゃったし、恥ずかしがること無いでしょ」
そう言って平然と畳み出す。
「あとで写真撮ろうかなあ」
「ダメだって」
「フフ、冗談よ」
洗濯物を片付け終わると有栖は言った。
「……さて、次はいよいよ夕食か」
「有栖、ちょっと休んだらどうだ?」
「……なんか休んだらたっくんに負けた気がする」
「はあ?」
「私が元気だってところを見せとかなきゃ」
俺が気を使ったばかりに、有栖は逆に張り切ってしまったようだ。
姫菜や結梨ちゃんも時々手伝っていたが、有栖はほとんど一人で夕食を作り終えたようだ。スパイスから作ったカレーにサラダだ。途中からすごくいいにおいがしてきて俺も腹が減ってきていた。
「うわあ! すごい!」
出てきたカレーはまるで専門店のような感じで、野菜が盛りつけられた色とりどりなカレーだ。
食べてみると最高に美味い。
「すごいです! 有栖さん!」
「すごいでしょ、お姉ちゃんのカレーは絶品だからね」
「なんで結梨が自慢げなのよ、まったく……たっくんはどうかな?」
有栖が心配そうに俺を見る。
「うん、めちゃくちゃ美味い。おかわりあるか?」
「うん、あるよ! どんどん食べて」
俺は最高に美味い有栖のカレーを腹一杯食べた。
「ふぅ……」
「満足した?」
「ああ。ありがとうな、今日は」
「うん……じゃあ、洗い物したら帰るね」
「いや、洗い物ぐらいは俺がやるから」
「ダメ。今日はたっくんのお世話するんだから、言ったでしょ」
有栖はどうしても俺には何もさせないようだ。
洗い物まで済ませてもまだ外は明るかった。
「……ちょっと早いけど送ってもらうと悪いし、今日は帰るね」
「うん、わかった。ありがとうな。それに悪かった」
「ほんとだよ。めちゃくちゃ泣いたからね!」
「ごめん……」
「まあ、雨降って地固まるって事でいいか。たっくんのパンツも見れたし」
「おい!」
「えへへ。じゃあ、明日!」
「うん、また明日な」
有栖と結梨ちゃんは帰っていった。
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