第9話 副会長候補
翌日、有栖は正式に副会長候補となることを赤嶺先輩に伝えたらしい。
数日のうちにその噂は広まっていた。
「アリス様、今日も昼休み居ないな」
二宮が有栖の席の方を見て言った。
「そうだな」
「また赤嶺先輩のところかな。しっかし、一年生で副会長候補ってすごすぎだろ」
「確かに……」
「でも、あの二人、ほんと似合ってるよな。まるで姉妹のようだ」
あのとき、俺も有栖にそんな話をしたのを思い出す。だが、あれから、有栖と一度も公園で会っていなかった。別に俺たちはいつも待ち合わせをしているわけでは無い。だから公園に行っても有栖に会えなくて当たり前だ。
まあ、そんなものだろう。そもそも俺と有栖が友達になったっていうこと自体、ありえないことだしな。
そんなことを考えていると、俺のスマホが振動した。
有栖『拓実君、今日公園行く?』
久しぶりのメッセージ。俺と有栖は確かに友達だったらしい。
拓実『行く予定だ』
有栖『分かった』
来るということかな。それなら久しぶりに有栖と話せる。放課後が待ち遠しくなった。
◇◇◇
放課後、公園に行くとそこのベンチに居たのは茶トラと白猫だ。いつも通りだな。俺は猫の横に座り、背中をなではじめた。今日は黒猫は出てこない。有栖を待っているのだろうか。
しばらくすると、有栖が来た。それを待っていたかのように黒猫が現れて足下に行く。
「ふふ、やっぱり黒猫ちゃんは私が好きなんだ。よしよし」
ベンチに座り、またスカートの上に黒猫を置いてなでだした。
「なかなか忙しくて猫ちゃんなでられなかったから、今日は嬉しいな」
「やっぱり忙しそうだな」
「うん。でも、赤嶺先輩はよくしてくれるし、他の二年生の先輩もみんな協力してくれて……なんとかなりそう。みんないい人ばかりだよ」
「そうか……月城も推薦人に入る予定なのか?」
「もちろんそうだよ。来年、どっちが会長になるかは分からないけど月城君とペアで立候補する予定だし」
「そうか……」
「もしかして、月城君のこと、心配してるの?」
「心配って言うか、俺は月城のことはよく知らないからさ」
「私はよく知ってるから大丈夫だよ」
「そうだよな」
何となく月城にいいイメージが無かったが、有栖は一緒に生徒会でやってたんだし大丈夫か。ただ有栖が月城を『よく知ってる』と言ったことに何かモヤモヤする。有栖が仲良くする男子は俺以外には月城ぐらいしか知らないから、どこかに対抗心があるのかも知れない。
「じゃあ、帰ろうか」
有栖はスカートの上から黒猫を下ろした。黒猫に触れなかったのは残念だが、有栖も何も言わないので俺も何も言わず、一緒に公園を出た。
歩きながら有栖が俺に言う。
「拓実君って何か不思議な感じだよね。教室で話すのは二宮君ぐらい?」
「まあ、そうだな。あんまりコミュニケーションは得意じゃ無いし」
「そうなんだ。私とは普通に話してるけど」
「有栖は話しやすいから」
「そっか……あのさ、拓実君は生徒会とか興味ない?」
もしかしたらこういう話をされるかも知れないとは思っていた。そして答えはもう決めてある。
「無理だよ。コミュニケーションは得意じゃないんだって」
「そっか……残念。師匠と一緒にやりたかったのに」
「それはさすがにあきらめてくれ」
「……分かった。じゃあ、何か部活に入ったりするの?」
「部活か。今のところは考えて無いなあ」
「そうなんだ。何か興味あることとか無いの?」
「うーん、あえて言えば歴史かな」
別にそれほど詳しいわけでは無いが、歴史の本を最近は良く読んでいる。
「歴史かあ。いつもそういう本読んでるよね。たしかうちの高校にも歴史研究部ってのがあったよ」
「そうみたいだな。俺もそこには少し興味があるけど……」
「だったら一度行ってみたら?」
「そうだな。考えてみる」
「私も歴史には興味あるから、拓実君と同じ部活に入ってみたいけど……月城君みたいにいろいろ噂されるかもしれないし……拓実君には迷惑だよね?」
「……正直、迷惑かも」
「ひどーい!」
有栖は頬を膨らませた。
「仕方ないだろ。有栖は注目されてるんだから。分かるだろ?」
「うん……私と話してるといろいろ言われちゃうもんね」
「まあな。でも、有栖と話すことは好きだぞ」
「え、好き!?」
「ああ。話すことが、だからな」
「そ、そっか……」
「まあ、だからこれから忙しくなるだろうけど、公園とかメッセージで俺と話してくれ」
「もちろんだよ。友達だもん。それに師匠と弟子だし」
「そうだな」
「それに、まだ拓実君に猫の集会を見せられてないし」
「確かに。いつか見たいものだ」
でも、猫の集会を見たら、有栖との関係も終わってしまうのかも知れない。そんなことも考えた。
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