第20話 山根先輩

 水曜日。今日は生徒会選挙の公示日だ。結局、立候補は赤嶺先輩と有栖のコンビしか無かった。この場合、信任投票が行われる。来週、水曜に演説を行った後、投票が行われ、過半数が信任すれば当選となる。


 有栖は今日もとにかく忙しそうだった。俺は何も手伝えないから、勝手に申し訳なく感じる。今日は部活だが、終わった後もおそらく会えないだろう。


 そんなことを考えながら、歴史研究部の部室に来た。


「失礼します……ん?」


「お、君が新入部員か」


 そこには八田部長、春月先輩以外にもう一人男子が居た。


「二年の山根大介やまね だいすけだ。よろしくな」


「し、白木拓実です。よろしくお願いしますっ!」


「そう緊張するなって。気楽にやろうぜ」


「はいっ・・…山根先輩の専門はどの分野なんですか?」


「うーん、別に無い」


「あっ、そうなんですか。じゃあ、俺と同じですね」


「そうか。気が合いそうだな」


「はい。良かったです。俺は何となく歴史全般が好きで入ったんですけど、山根先輩は何か入った理由とかあるんですか?」


「うーん、そうだな……」


 そう言って春月先輩の方を見た。春月先輩は目をそらす。


「……俺も何となくだ」


「いや、絶対、春月先輩がらみでしょ!」


「鋭いな」


「誰だって分かります。もしかして付き合ってるとか?」


「そんなわけないでしょ」


 春月先輩がすぐに言う。


「だったら、元カレ・元カノとか……」


「そこまで気まずい感じ出してた? 違うわよ」


「じゃあ、なんだろう……」


「単なる俺の片思いだ」


 山根先輩が言う。


「あー、なるほど……告白とかしたんですか?」


「したぞ、何回も」


「言わなくていいから。何バラしてんのよ」


 春月先輩が怒った。


「いいだろ、別に……全部失敗してるんだし」


「そうなんですね。それでも、山根先輩はこの部に居続けてるんですか」


 メンタル強いな。


「まあな。こいつらを二人きりにさせないために」


「「はあ?」」


 春月先輩と八田部長が同時に言った。


「白木、この二人を見て、お前はどう思った?」


 山根先輩が聞いてくる。


「仲いいなと思いました」


「だよな。絶対くっつくよな?」


「そうかもしれません……」


「だから、それを阻止するために俺はここに居るんだ」


「ちょっと! 私と大悟はくっつかないからね!」


「そうだぞ、何言ってるんだ」


「はいはい……白木、お前とは気が合いそうだ。これからよろしくな」


「よろしくお願いします!」


 気が合う先輩が見つかって良かった。


 そうこうしていると、八田部長がホワイトボードの前に立った。


「まあ、いい。白木、今日は西南戦争の講義を受けてもらうぞ。美羽と山根も一緒に聞け。文化祭でも必要になるから復習だ」


「また? もう何度も聞いてるけど」


「俺も聞き飽きた」


「でも、覚えてないだろ。じゃあ、征韓論からな」


 そこから 八田部長の講義が続いた。ホワイトボードはあっという間に真っ黒になった。

 山根先輩は眠そうだった。


◇◇◇


 部活の終わり際、春月先輩が紅茶を入れながら俺に言った。


「そういえば、部に入ってくれそうな人見つかった?」


「いえ……ちょっと友人に聞いてみたんですが、もう他の部活に入ってて……」


「そうなんだ。じゃあ、他の人、誰か居ない?」


 俺は有栖の顔が浮かぶ。だが、有栖が参加することはどう考えても難しい。そう思ったとき、春月先輩が言った。


「1年生なら幽霊部員でも大丈夫なんだけど。兼部はだめだけどね。名前だけ貸してもらえれば……」


「そうなんですね。それならば一人居ないことは無いですけど……」


「そう? だったらその子を連れてきてよ。入部届けを書いてもらえればそれでオッケーだから。ほんと、切羽詰まってるのよ」


「いつまでに部員を集める必要があるんですか?」


「金曜まで」


「マジですか……」


 今日は水曜。猶予は2日しか無かった。


 うーん、名前だけだったら有栖でも何とかなるんじゃないだろうか。頼んでみるしかないか。

 こういうのはメッセージじゃなくて直接会って頼んだ方がいいだろう。


 だが、この日、やはり有栖は忙しいのか、公園に来ることは無く、何も言えなかった。


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