第19話 サプライズ
翌日、昼休みに二宮に聞いてみる。歴史研究部に入ってくれるかどうかだ。
「二宮、お前部活は何か入るのか?」
「そうだな……俺は吹奏楽部に入る予定だ」
「吹奏楽部? お前、楽器できるのか?」
「いや、できない。入ってから教わる」
「……じゃあ、なんでまた吹奏楽部に」
「そりゃ、もちろん……」
そう言って小声になる。
(山鹿さんが入るからだよ)
山鹿成美か。有栖の親友の一人だ。
「お前、頑張るなあ」
「まあな。それぐらいやらないと彼女なんて無理だぞ」
「まあ、頑張れ」
しかし、これで歴史研究部に誘えるのは誰も居ないか。まずいな。
◇◇◇
放課後になり、俺はいつものように公園に向かった。今日も白猫と茶トラが居た。ベンチのそばに座り、二匹をなでる。すると、すぐに有栖が現れた。
「うーん、今日も黒猫ちゃん居ないね」
「そうだな……でも、そのうちひょっこり現れるって」
「うん……そうだよね」
「じゃあ、行くか」
「わかった」
俺たちは一緒に公園を出る。そして、いつもなら有栖の家の方に曲がる道を曲がらず進む。姫菜へのサプライズをするために俺の家に行くのだ。
「なんか緊張する……」
「いつものようにしてくれたらいいから。さ、行くか」
俺はドアを開けて「ただいま!」といつもより大きめに言う。すると妹の姫菜が出てきた。
「今日は早いね。どうしたの……って、え!? 誰!?」
「お邪魔します。たっくんのクラスメイトの谷崎有栖です」
有栖が礼をする。
「た、たっくんって誰!?」
「あ、ごめん。拓実君をたっくんっていつも呼んでて。妹さんの姫菜ちゃんだよね」
「そ、そうですけど……えっと、お兄ちゃんとどういう関係ですか?」
「友達だよ」
「そ、そうですか……あ、部活が一緒の?」
「ううん、部活は違うよ」
「あ……そう、ですか……」
姫菜の呆然とした顔を見て、俺は十分満足した。
「それじゃ、姫菜。俺たち部屋に居るから」
「う、うん……」
そう言って有栖を自分の部屋に案内した。
「いやあ、すっきりした! 姫菜があんなに驚いているなんて気持ちよかったよ」
「たっくん、嬉しそうだね」
「まあな。いつも女友達居ないとか彼女居ないとか馬鹿にされてたから。俺にこんな美少女の友達が居るとは思ってなかっただろう」
「び、美少女って……」
「あ……」
「たっくん、そんな風に思ってたんだ」
「いや、さすがにそれは思うだろ」
「たっくんから、そういうの感じなかったから……」
「俺だって男だぞ。言っただろ」
「そうだけど……なんか、女友達みたいに話してたし」
やっぱり異性と意識されてなかったか。
そのとき、扉がノックされた。姫菜だろう。
「姫菜、どうした?」
「コーヒー持ってきた」
俺は扉を開ける。姫菜がコーヒーを俺と有栖の前に出した。
「えっと……改めまして、白木姫菜です」
「谷崎有栖です」
「有栖さん、ですね。谷崎、か……」
まだ結梨ちゃんが妹とは言わない予定だ。それはまたサプライズする。
「あの……ほんとにお兄ちゃんの友達なんですか? ドッキリならそろそろ……」
「ほんとだよ。たっくんの友達」
「たっくん……えっと、友達なら一緒に遊びに行ったりとかあるんですか?」
「この間、買い物行ってお好み焼き食べたよ」
「え!? もしかして二人でですか?」
「うん」
「……有栖さん、もしかして、お兄ちゃんに弱み握られてます?」
「なんでだよ。まったく……」
「姫菜ちゃん、信じられないんだね」
「そりゃそうでしょ! 今まで女の影一つ無かったのに、急にこんな美女!」
姫菜が大声を出す。
「まあ、そうかもな。俺だってそうなんだから……」
「たっくん……そうだったの?」
「まあな。教室では話さないしさ、いつも外で会うだけだから。ほんとに有栖と友達になったんだっけ? って思うときあるよ」
「たっくん……」
「え、お兄ちゃんと有栖さん、友達ってこと隠してるんですか?」
「まあ、そうかな……いろいろと周りがうるさくなるからね」
「そうなんですか。だったらわからないでもないかな。絶対釣り合っても無いし」
「そうだけど言うなよ……」
「有栖さん、お兄ちゃんと仲良くしてやってください! 教室では無視でいいので」
「お前なあ……」
「姫菜ちゃん、こちらこそだよ。たっくんにはお世話になってばかりで」
「お世話……」
姫菜が怪訝な顔をする。
「たまには私の方からお世話しちゃうんだけどね」
「……お兄ちゃん、ほんとにどういう関係?」
「友達だって」
「まさか変なこと――」
「してるわけないだろ」
「変なことって?」
「有栖もいいから。あ、もうこんな時間か。有栖、帰るか?」
「え、もう? 全然たっくんの部屋見てないけど」
「俺の部屋は何も面白くないからさ」
「何か隠してたりしてないの? 私に見られたくないようなやつとか」
「そういうのは無いから」
「じゃあ、有栖さん。私が探しておきます!」
「なんでだよ」
「姫菜ちゃん、よろしく! あ、見つけたとき用に連絡先交換しようよ」
「そうですね!」
二人は連絡先を交換し始めた。厄介なことにならないならいいが……
「それじゃあ、有栖を送っていくから」
「はーい、いってらっしゃい」
姫菜はすっかり有栖が気に入ったようだな。
帰り道、有栖が言う。
「姫菜ちゃん、いい妹さんじゃない」
「そうか? 生意気だし。結梨ちゃんの方が可愛いよ」
「結梨がそれ聞いたら喜ぶだろうけど、そんなこと、姫菜ちゃんの前で言ったらダメだよ」
「……そうだな」
「ま、サプライズ成功って事で。でも、もう一回、あるからね。楽しみ!」
「だな」
今度は有栖の家に食事に行くときにサプライズだ。
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