第21話 入部依頼

 翌日から選挙運動が始まり、有栖は赤嶺先輩と共に朝からにチラシを配ったり、演説をしたりとさらに忙しそうだ。

 休み時間にもほとんど教室に居ない。


 だが、歴史研究部の部員確保は明日まで。今日中に有栖に約束を取り付けて、明日部室で入部届を書いてもらいたい。

 ということは放課後、有栖に会うしかない。俺は珍しく自分から有栖にメッセージを送った。


拓実『今日公園に来るか?』


有栖『公園は相当遅くなるよ。何か話があるの?』


拓実『うん、少し』


有栖『だったら放課後教室に残ってもらえる? 暇が出来たら行くから』


拓実『分かった。ありがとう』


◇◇◇


 放課後になり、有栖はすぐに教室を出て行った。俺は教室に残り、本を読み始める。八田部長から無理矢理押しつけられた西南戦争の本だ。これを読んでこいということだったからちょうどいい。


 しばらく経つと有栖からメッセージが届いた。


有栖『ごめん、たっくんがこっちに来れるかな? 今だったら時間取れるから』


拓実『いいぞ。どこだ?』


 有栖が指定したのは空き教室の一つ。そこが選挙本部になっているらしい。俺は急いでそこに向かった。


 教室の前まで行くと緊張が走る。他の人が居たらどうしよう。そう思ったが、ここまで来たら開けるしかない。


 ドアを開けるとそこには有栖しか居なかった。机の上に置かれたパソコンを使っている。


「あ、たっくん! ごめん、来てもらって……」


「いや、俺が頼んだことだから。この部屋は他に誰も居ないのか?」


「え!? 誰も居ないけど……やっぱり話ってそういうことか……でも、二人きりになれる時間は短いと思うよ」


「いや、時間はかからないから」


「そ、そうなんだ……でも、ちょっと待って!……そういう話はまだ早いんじゃないかな。お互いをよく知ってからでも……」


「いや、急がないとダメだ」


「そ、そうなんだ……うん、たっくんがどうしてもというなら……じゃあ、いいよ」


「そうか。有栖……実はな……歴史研究部なんだけど――」


「れ、歴史研究部!?」


 有栖がなぜか驚いた顔をした。


「ん? どうかしたか?」


「う、ううん……そういう話か……ごめん。てっきり……。はあ、まあそりゃそうか、たっくんだし……」


「何が?」


「あ、ごめん、ちょっと勘違いしてた。で、歴史研究部がどうしたの?」


「人数が足りなくて困ってるんだ」


「人数? ああ、5人居ないと廃部になっちゃうもんね。何人足りないの?」


「1人だ」


「そうなんだ。じゃあ、私が入ろうか?」


「え、いいのか?」


「いいに決まってるでしょ。もともと入りたかったけど、たっくんが迷惑だって言ったから入ってないのに……」


「そんなこと言ったっけ?」


「言った。私、結構傷ついたよ、あれ……」


 そういえば言ったか。「ひどーい」と言われた記憶が……


「ご、ごめん……今更だけど入ってくれるか?」


「もちろん! でも、あんまり参加できないと思うけどね。幽霊部員みたいになっちゃうけどいい?」


「それはいいと言われてるから。ありがとう。あとは入部届なんだけど――」


「明日、部室に行くよ。顔も出さずに入部届を書くのは失礼だし。空き時間はちょこちょこあるからね。ちょっと行くだけなら大丈夫」


「ありがとう。ほんと、助かるよ」


「私が入りたいんだからいいんだよ。たっくんと一緒の部活か……楽しみ!」


「でも幽霊部員だろ」


「参加できるときは参加するから」


 そのとき、扉が開いた。


「あ、赤嶺先輩!」


 入ってきたのは生徒会長に立候補している赤嶺鏡花あかみねきょうか先輩だ。


「有栖、順調かい?」


「はい、大丈夫ですけど、先輩、どうしたんですか?」


「いや、有栖が誰かと会うって言ってたろ? 誰と会うんだろうと思ってね」


「誰かとって……ちゃんとクラスメイトの白木君って言いましたけど……」


「そうだったね。君が白木君か」


「は、はい、そうです」


 赤嶺先輩から話しかけられて緊張する。生徒会長候補だけあって威圧感がすごいな。


「有栖とはどういう関係?」


「友達です……」


「恋人とかじゃ無いだろうね。選挙中にスキャンダルは困るよ」


「ち、違います。ただの友達ですから……」


「そうか。ならいいが……」


 赤嶺先輩はそういうことが心配だったから見に来たのか。


「じゃあ、もしかして、今、告白してた?」


「え!? してませんから!」


「そうですよ、先輩。されてないです!」


 有栖は不満そうに言った。


「そうか。まあ、別に付き合っててもいいんだけどね。でも、できれば当選後にお願いしたい」


「俺と有栖はそういう関係じゃ無いですし。ちょっと頼み事をしに来ただけです」


「頼み事?」


「はい、歴史研究部に入ってくれないかと。存続のための人数が足りないので」


「歴史研究部か。大悟と美羽のところだな……」


「はい。八田部長と春月先輩ですね」


 それを聞いて有栖が言った。


「え? 『美羽』って……女子の先輩が居るの?」


「そうだよ」


「そ、そっか……たっくん、その先輩と仲良く話したりしてるの?」


「仲良くかは分かんないけど、時々話すよ」


「そ、そうなんだ……」


「有栖、どうしたんだい? 何か焦ってる?」


 赤嶺先輩が聞く。


「そ、そんなことないです……」


「ふふ、有栖は可愛いね」


 そう言いながら赤嶺先輩は有栖に近づき、頭をなでだした。まるで美人姉妹のような二人を見ていると、思わず言葉が出る。


「尊い……」


「え? たっくん、何か言った?」


「い、いや、なんでもない。それじゃ、俺は用事が済んだから。赤嶺先輩、失礼します」


「うん、白木君、投票はよろしくね」


「もちろんです。では……」


 俺は教室を出た。


 しかし、赤嶺先輩、なんか妖艶だったな。有栖との関係、やばいな。こりゃ、いろんな意味で人気が出るだろう。


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