第36話 杉本碧唯
水曜日の朝。自分の席に座っていると俺に「おはよう」と挨拶してくる女子が居た。誰だ? と思わず顔を上げると杉本碧唯だった。
「お、おはよう……」
俺は戸惑いながら挨拶を返す。
「何、その顔」
「いや、急に挨拶されたから……」
「あ、そっか。今までしてなかったっけ。私、友達にはみんなにしてるからあんまり気にしないで」
そう言って、自分の席に行く。確かにみんなに挨拶してるな。しかし、俺も友達という扱いになったか。
「お前、やっぱり杉本さんと仲いいな」
隣から話しかけてきたのは二宮だ。
「別に仲良くは無いよ」
「だって、この間も何か世間話してたろ」
「……してたけどさ」
有栖の演説の翌日にしたな。もちろん、話題は有栖のことだけど。
「いいなあ、ワンチャンあるんじゃ無いか?」
「あるわけないだろ」
でも、二宮に詳しく説明するわけにもいかない。有栖のことは内緒だ。
◇◇◇
体育の授業。今日はサッカーだ。「よーし、ペアを組んで! まずはショートパス!」という体育教師の声で一斉にペアが組まれる。俺はだいたい二宮とペアだが今日は違うやつが俺に近寄ってきた。
「白木、俺とペア組もうぜ」
そう言ってきたのは石川だ。サッカー部の人気者。なんで俺が本職のやつと……と思いながらも断る理由も無いのでそのままペアを組む。短い距離でパスをやりとりする。やっぱり上手い。ついていくのがやっとだ。
「よーし、休憩!」
さすがに疲れた。座り込むと隣に石川が座った。
「白木、お前、杉本さんと仲良くしてるよな」
「はあ? 仲良くなんてしてないぞ」
「今日も挨拶してたろ。それに昨日の放課後、一緒にどこかに消えてたくせに」
見られてたか。俺は言い訳が浮かばず黙り込む。
「別に隠さなくていいと思うぞ。なあ、俺も杉本さんと仲良くなりたくてな。今度一緒に遊びに行けないか?」
「無理だよ。そんな関係じゃ無いから」
「別にいいだろ。俺は杉本さんを狙ってるわけじゃ無いから安心しろよ」
「え?」
じゃあ、なんなんだ。
「俺の狙いはアリス様だよ。まずは親友の杉本さんと仲良くなってアリス様と一緒に遊びに行けるようになるって狙いだ。杉本さんはお前に任せるから」
こいつ、盛大な勘違いだな。俺が杉本碧唯を狙っていると思っているのか。
「だからほんとに無理だって。そんなに仲良くないし」
「そうなのか。じゃあ、仲良くなったら頼むな。お前の恋も応援してやるから。協力していこうぜ」
もう面倒だから誤解は解かなかった。
しかし、やっぱり有栖は人気だ。杉本さん、山鹿さんも大変だろうな。
◇◇◇
放課後、有栖はすぐに教室を出て行く。有栖からは部活には行けないという連絡を既にもらっていた。俺も部活に行こうと教室を出ると声を掛けられた。
「白木君は部活?」
杉本碧唯だ。
「そうだよ。杉本さんは?」
「私は帰るだけ」
横に並んで歩く。
「今日、有栖は部活来るの?」
「来れないって」
「やっぱりそうだよね。でも、気持ちは行きたいんだと思うよ」
「そうかもな。俺よりも歴史に興味あるんじゃないかって思うぐらい、部活じゃ真剣だから」
「そうなんだ。有栖が部活自体も楽しんでるならよかった。白木君が居るから入っただけだって思ってたから」
「多少は興味ないと友達が居るからってだけじゃ入らないでしょ」
「ただの友達ならね」
「え?」
「あ、じゃあ、ここで!」
「あ、うん。また明日」
ちょうど分かれ道に来たので杉本さんと別れ、部活棟に向かった。
◇◇◇
今日の歴史研究部では前回からの続きで八田部長の西南戦争の話が進む。
帰るときに春月先輩が言った。
「それにしても有栖ちゃんの人気、すごいわね」
「そうなんですか?」
「うん。同じ歴史研究部に居るって言ったら紹介しろってうるさく言われて」
「え、男子にですか?」
「うん。幽霊部員だからそんなに親しくないって言って断ったけど」
「どこの男子だよ、そいつ。文句言ってやる」
山根先輩が不快感を出して言う。有栖を狙おうという男子に文句を言ってくれるとは、山根先輩もちゃんと後輩のことを考えてくれてるんだな。
「山根君には関係無いでしょ」
「いや、美羽に話しかけてるのがむかつく」
やっぱり春月先輩のことしか考えてなかったか。
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