第5話 私のやりたいこと (side 有栖)

 私、谷崎有栖は月城君に勧誘を受けた。月城君は、赤嶺あかみね先輩という生徒会長候補の推薦人になりたいらしい。一緒にやらないかという勧誘だった。


 私は高校では生徒会に入るつもりは無かった。でも、実際に勧誘を受けると私の心は揺れた。もうやらないと思っていたが、今度はうまくいくんじゃないかという気持ちも出てきてしまう。


 悩みながら帰っていると、いつの間にか猫が居る公園に辿り着いていた。そこで、拓実君が私の話を聞いてくれた。拓実君は私に猫の扱い方を教えてくれた猫師匠だ。それに私の連絡先を知っても、しつこくメッセージを送ってくることも無く、教室でも私に絡んでくることも無かった。それは私が今まで知り合った男子とは違った態度だった。


 良くも悪くも彼は私から一歩引いた立ち場で物事を見ている。だから、思い切って相談してみた。


「師匠……じゃなかった拓実君、どうしたらいいと思う?」


 それに対し、拓実君はちゃんと考えてくれた。まずは自分のやりたいことをまとめること。私は自分の考えをまとめるため、ノートに書いてみた。


 最初に「公正な生徒会の実現」。ルールを正しく運用し、決定プロセスも透明化する。問題が起きたら公正な調査を行う……。それに「公平な生徒会の実現」。きちんと生徒の意見を聞く場を設け、学校のリソースも公平に分配する……。そして、「楽しい生徒会の実現」。イベントに全力で取り組み、部活動をはじめとする生徒の自主的な活動を促進し、繁雑な作業はIT化によって楽が出来るように……。


 書き終えた私は拓実君に見てもらうためメッセージを送った。


有栖『私のやりたいことをまとめてみたよ。拓実君、見てくれるかな』


拓実『いいぞ』


有栖『じゃあ、送るね』


 私はやりたいことを書いたノートの写真を送った。


 しばらくして、拓実君から返事が来た。


拓実『いいんじゃないか』


有栖『そう? じゃあ、これを生徒会長候補に見てもらうね。ありがとう』


 これで一安心かな。そう思ったところで電話がかかってきた。親友の杉本碧唯からだ。


『有栖、生徒会、結局どうするの?』


「うん。とりあえず自分のやりたいことをまとめたから、それを先輩に見てもらうよ。それで受け入れてもらえないなら、やらない」


『なるほどね。それなら自分がやりたいことが実現できるもんね』


「うん。ちょっと生意気だけどね。でも、そうじゃないと私が入る意味が無いから」


『それもそうか。中学の時と同じじゃね』


「うん。今度はそうなりたくないから」


『とりあえず、どうするか決まって良かったよ。悩んでたみたいだから心配してたんだ。よく決断したね』


「うん。ある人に相談したら、こうしたらいいんじゃないかって言われたんだ」


『そうなんだ。その『ある人』ってのが気になるけど……聞いちゃだめな感じ?』


「うーん……私はいいんだけど、その人に迷惑掛けるかも知れないから」


『そっか。信頼できる人なんだね』


「そう……だね」


 そうか。私は拓実君を信頼してるんだな。師匠だし。


『それで、その自分のやりたいことってのは月城君に送ったの?』


「ううん、まだだよ。だって、連絡先知らないし」


『え? そうなの? 月城君と有栖って仲いいって思ってたんだけど……』


「碧唯までそんなこと言うの?」


『だって、中学の時はいつも一緒に居たでしょ』


「それは生徒会長と副会長だったからだよ」


『付き合ってないってのは聞いてたけど、相当いい感じの関係だって思ってたよ』


「もう、やめてよ。月城君はそういうのじゃないから」


『ほんとにそうなんだね』


「うん、そうだよ」


『そっか。さすが難攻不落のアリス様』


「なにそれ」


『男子がそう呼んでるって。誰が告白しても落ちないから』


「当たり前でしょ。よく知らない人に告白されても付き合うわけ無いし」


『でも、それ以前に男子の友達も居ないでしょ』


 一瞬、拓実君のことが頭に浮かんだ。でも、これは言えないか。


「まあ、そうだけど……」


『今は恋愛には興味ない感じ?』


「そうね。これから忙しくなるだろうし」


 それに私は恋愛というものがよく分かっていない。恋愛したらどうなるのか、何が友達と違うのか、ぼんやりとしかわかっていなかった。それが恋愛に興味ないって事なのかもしれないけど……


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る