第4話 勧誘
翌日。俺が教室に入ると
席に着いてしばらくするとメッセージが届いた。
有栖『おはよう、拓実君。挨拶もメッセージでするね』
拓実『おはよう、有栖。そうだな。何か用があればメッセージで』
有栖『うん』
寂しいが、確かにその方がいい。有栖はみんなからいつも注目されている。最近はその注目の度合いも増しているように感じるし。
俺は何事も無かったかのようにいつも読んでいる歴史の本を読み出した。
◇◇◇
昼休み。俺は二宮と教室で弁当を食べる。有栖はいつもの友達2人、杉本碧唯、山鹿成美と一緒だ。毎日の光景だが、そこに見知らぬ生徒が入って来た。
「谷崎さん、ちょっといいかな」
そこに現れたのは、すらりとしたイケメンの男子。頭良さそうな顔だ。
突然、有栖に声を掛けたから教室中のみんなが注目していた。
「え、
「少し話があるんだ。いいかな?」
「うん、いいけど……」
そう言って有栖は月城と共に教室を出て行った。その後、教室はざわめきに包まれた。
「おいおい、あれは2組の
二宮が俺に教えてくれる。
中学のときの生徒会長か。そういえば有栖は副会長だったと言ってたな。
「そうなのか……あの二人、付き合ってるとか?」
「いや、谷崎さんはフリーのはず。月城のやつ、何しに来たのか……告白かもな」
有栖は良く告白されているらしいし、それもおかしくないな。
◇◇◇
昼休みも終わり間際になって有栖が教室に帰ってきた。すぐに杉本碧唯と山鹿成美に囲まれる。
「有栖、なんだったの? 告白?」
「え? 違う、違う。ちょっとした勧誘」
「勧誘? 部活とか?」
「そんな感じ。あ、授業始まるから」
先生が来て授業が始まり、有栖の話は聞けなくなった。
◇◇◇
その後、有栖は友人同士で何か話していたが、当然、俺にはその内容は分からない。そのまま、放課後を迎えた。
俺は公園にまた立ち寄った。別に有栖が来るかも知れないからではない。単に猫をなでたいだけだ。
公園には今日は猫は一匹だけ。いつもの茶トラだ。
俺は茶トラをなではじめる。猫も大人しくなでられているため、いつのまにか時間が経っていた。その間、誰も来ることは無かった。そろそろ帰ることにしようと立ち上がったとき、向こうから有栖が歩いてきた。
「有栖……」
「師匠……じゃなかった拓実君、まだ居たんだ」
「まあな。猫をなでていた」
「え? 猫、居ないけど」
いつの間にか茶トラは消えていた。
「あれ? さっきまで茶トラが居たんだよ。ほんとだよ!」
「ふふ、疑っては無いし。猫も居ないのに拓実君が私を待ってるなんて思ってないから」
俺はさっきまで猫が居たベンチに座る。横に有栖が座った。猫が居ないと俺たちは何も話すことが無い。お互いしばらく黙ったままで気まずくなり、俺は昼休みのことを聞いてみた。
「有栖、昼休みは忙しそうだったな」
「あー、ちょっとね……生徒会に勧誘されちゃって……」
「生徒会?」
「うん。といっても、すぐじゃなくて。来月に生徒会長選挙があって、2年生の先輩が立候補するんだけど、その推薦人にならないかって。推薦人になると、生徒会の役員になれるらしいんだ。当選すれば、だけど」
「へー、すごいじゃないか」
この学校の生徒会は権限も結構あるらしいし、役員になると相応の内申点が付くと聞いたことがあった。誰でも簡単になれるようなものじゃ無い。さらに言えば、一年生で生徒会に入ることで来年は次期会長も狙えるだろう。
「でも、入らないと思うよ」
有栖が意外なことを言う。
「そうなんだ。どうしてだ?」
「私、中学のときも生徒会やってたの。昼休みに来た月城君が会長で私が副会長。そのとき、いろいろあって疲れちゃったんだよね……」
「何があったんだ?」
「うーん……月城君はいい人なんだけど、私は副会長だからなかなか意見が通らないことも多くてストレスがたまったり……私なりにやりたいこともあったんだけど、出来なかったから。だから高校ではもう生徒会には入らないって決めてたんだ」
「そうだったのか。それなら仕方ないな」
「うん……でも、正直言って迷ってる……今度はやれるんじゃないかって思うこともあって……」
「そういうことか……」
「師匠……じゃなかった拓実君、どうしたらいいと思う?」
師匠か。俺は有栖の師匠、といっても猫の師匠にすぎない。でも、せっかく弟子に聞かれたから考えてみよう。こういうときに歴史好きの俺がまず考えるのが何か参考になる歴史の故事がないか、ということだ。最近俺が読んだ本に出てきた言葉が思い浮かんだ。
「……『
「孫子の兵法……」
「うん、中国の春秋時代の兵法書だな。まずは自分を知る。例えば、自分のやりたいことが具体的に何なのか、書き起こしてみるとか。そして、相手を知る。生徒会長候補に、このやりたいことをどう思うか、聞いてみるんだ。同意してくれるようなら推薦人になったらいいじゃないか」
「……さすが、師匠。そうだね、わかった。まずは自分のやりたいことをまとめてる」
「うん、そこからだな」
「ありがとう、拓実君。早速家に帰ったらやってみるよ」
有栖に感謝された俺はなんだかむずがゆかった。
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