第14話 お礼
翌日、家を出て鶴屋東館に向かう。一応、自分なりに一番いいシャツとジーンズを着た。髪もそれなりに整えたつもりだ。
路面電車に乗り、水道町電停で降りるとすぐに有栖が見つかった。
「あ、たっくん!」
「有栖、待たせたか?」
「ううん、今来たところだよ」
そう言う有栖は白いブラウスに青いロングスカート。清楚感が際立っている。俺はじっくりと見てしまった。
「ん? なに?」
「いや、有栖の私服初めて見るから」
「あ、そうか……どうかな?」
「すごく似合ってる」
「あ、ありがと……たっくんがそういうこと言うとは思わなかった」
「なんでだよ」
「だって、私のこと可愛いとか思ってなさそうだし」
「そんなわけあるか。俺だって、有栖を可愛いと思うたくさんの男子の一人だからな」
「そ、そうなんだ……」
「そりゃそうだ。だから、あんまり気を許しすぎるなよ」
「どうしようかな……たっくんだし」
「なんか、馬鹿にされているような……」
「違う違う、たっくんは安心できるってこと! もう……行こう!」
有栖は歩き出す。俺も慌てて後を追った。
「どこで買うかとかは決めてるのか?」
「うーん、そうね。ついてきて」
有栖について行き、エスカーレーターを上がる。5階に着くと有栖は目的の店に進んだ。
「ここだよ」
「時計か」
「うん、たっくんって腕時計してるでしょ」
確かに俺は腕時計をしている。最近の高校生では少数派だ。今ではスマホを見れば時間が分かるのにわざわざ腕時計をするのは意味が無いと言う人も居る。だが、すぐに時間が分かるので俺は腕時計が好きだった。
「そうだけど……ここ高級時計店だろ、ちょっと高くないか?」
「安いのもあるよ」
そうやって見せてきたものでも1万円は越えている。
「だめだ、だめだ。高すぎる」
「えー! せっかく、たっくんに時計プレゼントしたかったのに……」
「だったら、もうちょっと安いものでいいよ。そうだな、置き時計とか」
「置き時計か。本当は懐中時計がいいけど仕方ないね」
「置き時計ならハンズにいっぱいあったな」
俺たちは6階のハンズに来た。
「たっくんはどういう時計がいいの?」
「そうだな……」
今、家にも時計はあるが、朝起きるときには俺はスマホのアラームで起きていた。
「目覚まし時計にするか」
「いいね。どれがいい?」
俺は1500円程度のアナログ時計を選んだ。
「これかな」
「たっくん、アナログが好きなんだ」
「腕時計もアナログだしな。こっちが慣れてる」
「そっか。わかった。じゃあ、これ買ってくるね」
商品を受け取り、有栖が戻ってくる。
「はい、たっくん」
「ありがとうな」
「あと、これも……」
有栖は猫の消しゴムを出してきた。金太郎飴みたいにどこを切っても猫の顔が出てくる消しゴムだ。
「レジのそばに売ってあったから私の分も含めて2個買っちゃった」
「そうか。じゃあ、これもいただくよ。ありがとう」
「どういたしまして」
「それにしても、なんで時計をプレゼントしたかったんだ?」
「分かんない? 私、有栖だよ」
「有栖で時計……そうか、不思議の国のアリスだ」
『不思議の国のアリス』では、白うさぎを追って、主人公のアリスが冒険を行う。その白ウサギは懐中時計を持っていた。
「うん、だからほんとは懐中時計が良かったんだけどね」
「懐中時計はさすがに使わないし、これが必要な物だからありがたいよ」
「うん、よかった。白木君は私にとっての白うさぎだから。私を導いてくれる存在だなって思って……」
有栖、俺のことをそんな風に思っていたのか。
「まあ、俺は白木って名前だしな」
「ふふ、ほんとだ」
そんなことを話していると突然、声を掛けられた。
「あれ、有栖?」
見ると
「碧唯、来てたんだ」
「うん。有栖も一人?」
俺は見つからないようにそっと離れようとした。
「ううん、たっくんと一緒」
そう言って俺を見る。有栖、何で正直に言ってるんだ……俺は観念して立ち止まった。
「たっくん? ってか、うちのクラスの白木君!?」
「そうだよ」
有栖は平然としている。
「えっと……詳しく話を聞かせてもらっていいかな」
「うん、いいよ。たっくんも行こう」
「はぁ……」
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