第23話 サプライズ2
土曜日。今日は有栖の家で焼き肉をご馳走になることになっている。だが、妹の姫菜にはサプライズからだ。
「お兄ちゃん、今日、友達の家に食事に行ってくるから。覚えてた?」
姫菜が俺に言う。
「あ? ああ……そうだったな」
「何か勝手に食べててね。夕方頃、友達が来て出かけるから」
「おう、わかった」
そう。まずは結梨ちゃんが家に来ることになっている。妹はそう信じ込んでいるが……
夕方になり、インターフォンが鳴った。
「あ、結梨ちゃんだ。はーい!」
姫菜が扉を開ける。
「早かったね……って、え!? 有栖さん!?」
「姫菜ちゃん、久しぶり」
「お、お久しぶりです……もしかして、お兄ちゃんに会いに来ました?」
「そうだよ」
「そうですか。お兄ちゃん! 有栖さん来てるよ!」
「おー、今行く」
俺は既に出かける準備をしていた。そのまま玄関に行く。
「あれ? お兄ちゃんも出かけるの?」
「そうだぞ。姫菜も出かけるんだろ?」
「そうだけど、まだ友達来てないし……」
「来てるよ! 姫菜ちゃん!」
「あれ? 結梨ちゃん、来てたんだ……って、え!?」
有栖と結梨ちゃんが二人並んでいるのを見て、姫菜は驚いているようだ。
「なんか二人似てるね。まるで姉妹みたいで……」
「そうだよ。姉妹だもん」
「え!?」
「だって谷崎有栖と谷崎結梨。でしょ?」
「いや、そうだけど……姉妹?」
「そうだよ。たっくん、行こう!」
「おう、行くか。姫菜、準備できてるよな」
「うん……って、お兄ちゃん、どこ行くの?」
「何言ってるんだ。有栖の家だ」
「え!? 私も結梨ちゃんの家に行くんだけど」
「だろ? 一緒に行くぞ」
「え!? どういうこと!?」
混乱する姫菜を結梨ちゃんが説明しながら、有栖の家に向かった。
「えっと……ちょっと待って。有栖さんがお兄ちゃんの友達でしょ。で、結梨ちゃんが有栖ちゃんの妹で、私をお兄ちゃんの妹だと知って、声かけてきたってこと?」
「うん、そうだよ」
「そうだったんだ……じゃあ、その頃から付き合ってたの?」
「付き合ってないから。友達よ」
「そ、そっか。有栖さん、彼女じゃ無かったですよね」
「うん、まだ友達」
「ですよね。まだ友達か……って、『まだ』!?」
「あ、ごめんごめん、聞かなかったことにして」
有栖、確実に姫菜をからかってるな。
◇◇◇
有栖の家に着くと、お母さんが歓迎してくれた。
「いらっしゃい、たっくん。あ、こちらが妹の姫菜ちゃん?」
「は、はい。白木拓実の妹の姫菜です。今日はお招きいただき、ありがとうございます」
「あら、ご丁寧にどうも。結梨の友達なんでしょ?」
「はい、有栖さんの妹と聞いてすっかり混乱してます」
「うちのイタズラ娘たちがごめんね」
「イタズラ娘って……姫菜ちゃん、こっちで遊ぼう!」
結梨ちゃんが姫菜をリビングに引っ張って行く。ゲームでもやるようだ。俺はダイニングのテーブルの席に座った。
「たっくん、ちょっと待っててね」
有栖がホットプレートを出す。
「手伝おうか」
「うん、ごめん。たっくんはコンセントさして」
「わかった」
その様子を見ていたお母さんが言う。
「あら? 有栖もたっくんって呼んでるの?」
「家でも呼んでるでしょ」
「でも、まさか本人に言ってるって思わなかったけど」
「お母さんがいつも言うから、つい言っちゃったのよ。それからもうずっと『たっくん』って呼んでるんだから」
「そうだったの。良かったじゃない」
「良かったって……まあ、そうだけど」
そこに結梨ちゃんが来た。
「ね! 私も『たっくん』って呼んでいい?」
「だーめ、年上なんだから。拓実さんって呼ばないと」
有栖が言う。
「えー! もう……」
「……結梨ちゃんってお兄ちゃんとも仲いいの?」
姫菜がそれを見て驚いている。
「あ、うん! 仲良しだよねえ!」
結梨ちゃんが腕に抱きついてきた。
「こ、こら! 離れなさい!」
有栖が力尽くで離す。
「まったく、もう……私でさえそういうことしてないのに……」
「え、してなかったの!?」
「当たり前でしょ! ただの友達なんだから……」
「それって本当なんだ。実は付き合ってるって思ってたけど」
「はあ? 違うわよ。本当に友達だから」
「だって家までいつも送ってもらってるし」
「いつもじゃないから。暗くなったときだけ」
「この間は明るかったけどね。それにデートも行ってるし。家にも連れてくるし」
「そ、それは……そういう流れだったからよ……」
「お姉ちゃん、ほんとに付き合ってないんだ……」
「うん……」
「じゃあ、拓実さん、私と付き合いませんか?」
「ふぇ!?」
「はあ!?」
「ふふ、冗談冗談!」
「こら、結梨!」
逃げる結梨ちゃんを有栖が追いかけた。それを姫菜が呆然とみていた。
「……姫菜、結梨ちゃんは俺をからかっているだけだからな」
「わかってるけど、仲いいんだね」
「まあな」
「……うーん、なんかモヤモヤする」
「どうした? 気分でも悪いか?」
「違うけど。お兄ちゃん、さっさと有栖さんと付き合いなさいよ」
「はあ? そんなことできるか。俺と有栖だぞ」
「まあ、そうだけど……でも、結梨ちゃんと付き合うとか無しだからね!」
「あるわけ無いだろ、まったく」
「だったら、いいけど」
姫菜は俺の隣に座った。
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