第44話 癒やし

 生徒会が終わり、俺は有栖と公園で待ち合わせる。今日は白猫と茶トラといういつもの猫メンバーだ。しばらくすると、有栖が来た。


「はぁ、何か疲れた……白猫ちゃん、私を癒やして」


 そう言って白猫に触る。白猫は大人しくなでられていた。


「ふふ、かわいい」


「有栖、お疲れ。今日はすぐ帰るか?」


「もう少しなでる」


 そう言ったのでしばらく俺も茶トラをなでていた。有栖が何も話さないので、ふと見ると目を閉じそうになっている。


「有栖、眠いのか?」


「う、うん。ちょっとね」


「少し寝るか?」


「うん……」


 有栖はベンチに座ったまま目をつぶった。やはり相当疲れているのだろう。しかし、こうやって見ると有栖はほんとに綺麗だな。あんまり見ないようにしないと、と思うがついつい見てしまう。


 思わず有栖の姿に見とれながら猫をなでているとあっという間に時間が経った。


「ん……ごめん、寝ちゃった」


「いいぞ。そろそろ起きるか?」


「そうだね。何分くらい寝てた?」


「10分ぐらいだ」


「そっか……帰らなきゃ」


 そう言って有栖は立ち上がるが、すぐにふらついた。慌てて俺は体を支える。


「おっと……大丈夫か?」


「ごめん……」


「あ……勝手に触ってごめん」


 俺も有栖の体に触っていることに気がつき慌てて手を離す。


「別にいいのに。支えてくれてありがとう」


「いや……」


 有栖の体に触れてしまった。そのことに申し訳なく思ってしまった。


「ふふ、でも支えてくれたたっくん、かっこよかった」


「そんなわけないだろ」


「ううん。やっぱり私の白騎士ホワイトナイトだ」


「え?」


「あ、なんでもない。帰ろうか」


「……そうだな」


 有栖と並んで公園を出る。もう辺りは少し暗くなっていた。


「今日は送るよ」


「……うん、ありがとう」


 有栖は素直に受け入れた。少し暗くなった道を有栖とともに歩く。有栖は少し鼻歌を歌い、上機嫌のようだ。


「たっくん、明日、クロに会えるね。忘れてないよね?」


 明日は堂道幸子さんの家の黒猫・クロに会いに行く日だ。


「もちろんだ。14時でいいんだっけ?」


「うん、私がケーキ買ってくるからたっくんは手ぶらで来て」


「わかった。でも、お金は半分出すからな」


「うん、ありがとう」


 有栖の家が近づいてきた。すると、玄関の前に誰か居る。結梨ちゃんだ。


「あれ? 結梨、どうしたの?」


「やっぱり拓実さんが居る! お姉ちゃんが遅くなったから絶対来ると思った!」


 結梨ちゃんが嬉しそうに俺たちのところに来た。


「さ、上がって上がって! お母さんがプリン用意してるよ」


「……たっくん、寄っていける?」


「姫菜も待ってるだろうし、少しなら」


「うん、じゃあ、上がって!」


 有栖も嬉しそうだ。俺は有栖の家にお邪魔することにした。


「たっくん、久しぶり」


「お久しぶりです」


 有栖のお母さんに迎えられテーブルに座る。


「いつも有栖がお世話になってるそうね」


「いえ、そんな……」


「有栖がいつも『たっくんがね』って、嬉しそうに話してくれるのよ」


「もう、お母さん……恥ずかしい」


 有栖の顔が赤くなっている。


「でも、有栖はほんとによく頑張っていますよ。生徒会の中心となって活躍してます」


「あら、そう」


「はい、仕事ぶりを見させてもらいましたが、すごかったです」


「もう、たっくんもあんまり褒めないでよ」


「あらあら、有栖、顔真っ赤よ」


「いいから!」


 有栖がお母さんに手を挙げて怒った。


「でも私はちょっと心配なのよね。有栖は頑張りすぎるから。たっくん、有栖が無理しないように見てあげてね」


「はい、分かりました」


「もう……私は大丈夫だからね」


「そんなこと言って、中学の時も頑張りすぎて倒れたことがあったでしょ」


「え、そうなんですか?」


「たいしたことないし。ただ風邪引いただけ」


「頑張りすぎて、よく体壊すのよ。それに心も。忙しいとやられるよ」


「大丈夫。私はたっくんに癒やされてるし」


「あら、そうなの?」


「……あ!? たっくんといっしょになでる猫に癒やされるって意味だから!」


「ふふふ、有栖ったら」


「もう、お母さんのせいだからね!」


 俺は黙って聞いておくしかないか。

 そこに結梨ちゃんが言う。


「ところで拓実さん、もうお姉ちゃんと付き合いだしたんですか?」


「こら、結梨!」


「いや、まだだよ」


「なんだ、そうですか……」


「結梨、変なこと聞かないの」


「はーい」


 思わず「まだ」と言ってしまったが、特に何も思われなかったか。


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