第11話 歴史研究部

 4月も終盤になり、有栖はさらに忙しそうだった。もう何日も公園で会っていない。生徒会選挙も迫っているから仕方ないだろう。


 教室から忙しそうに出て行く有栖を見ていると俺たちが公園で会って猫を一緒になでていた日々は幻だったんじゃないかという気がしてくる。


 だが、スマホには毎日のように有栖からのメッセージが届き、あれが現実だと言うことを思い出させた。たわいもない学校の話や猫の話ばかりだが、俺と有栖は確かに友達なのだ。


「アリス様と赤嶺先輩、すごい人気らしいな」


 ある昼休み、二宮が俺に言ってきた。


「そうなのか?」


「ああ。もう当選は決まり、みたいな雰囲気になってて、対立候補と目されていたやつも立候補しない方向らしい」


 ということは信任投票か。確かにあの二人が並んでいる姿を見たら、勝ち目が無いと思うよな。「戦わずして勝つ」ってやつだな。やっぱり有栖はすごい。


 そう思ったとき、俺のスマホが振動した。


有栖『拓実君、今日時間ある?』


 これは……久しぶりに会えるということか。


拓実『あるぞ』


有栖『あ、だめだ。今日も遅いんだった』


 だめか。有栖は何か俺に話したかったのかもしれないが、今日も遅いのか。だったら……


拓実『待っててもいいぞ』


有栖『だめだよ。結構時間かかると思うし。拓実君に迷惑掛けたくない』


 俺は待つのは問題なかったが、有栖に罪悪感をもたせてしまうか。


 ……よし、じゃあ、こうしよう。


拓実『俺は歴史研究部に行ってみるから大丈夫だ』


有栖『歴史研究部? そういえば前に言ってたね。興味あるって』


拓実『うん。だから、もしかしたら俺の方が遅くなるかもな』


有栖『全然いいよ。じゃあ、公園で』


拓実『わかった』


 久しぶりに有栖に公園で会える。これはすごく楽しみだが、勢いで歴史研究部に行くと言ってしまった。

 ちょっと不安だが、行ってみるしか無いか。


◇◇◇


 放課後、俺は迷ったが有栖に行くと言った以上、行くしか無い。歴史研究部のある部室棟に行く。ここはいわゆる旧校舎。古くなって今は使われていない校舎が部室として利用されている。歴史研究部は2階の階段を上がってすぐのところにあった。


 部室の前に行くと緊張してしまう。扉を開けることが出来ない。立ち尽くしていると、足音が聞こえ、中から扉がガラッと開いた。そこに居たのは丸顔のショートボブの女子だ。


「あら……もしかして入部希望の一年生?」


「あ、はい……」


「おお! 入って入って!」


 俺は部室の椅子に座らされた。中に居たのは髪がぼさぼさの、やさぐれた感じの男子。なぜかテーブルに腰掛けている。あとは俺を迎えた丸顔の女子の二人だけだった。


 やさぐれた男子が入部届を持ってきた。


「入部希望とは嬉しいね。あ、俺は部長の八田大悟はっただいご。三年だ」


「私は二年の春月美羽はるつきみうよ。紅茶をどうぞ」


 そう言って、俺に紅茶を出してくれた。


「あ……えっと……一年の白木拓実です」


「白木君か」


「あの……まずは体験入部とかって出来ますか」


「もちろんだ。じゃあ、入部届は入るつもりになったら持ってきてくれればいいから。今日は活動の紹介をしよう」


 八田部長が歴史研究部の活動を教えてくれた。それによると活動は月水金。やることは特に決まっておらず、そのときどきでテーマを決めて勉強会などを行うらしい。


「勉強会ですか……」


「別に肩ぐるしいものじゃない。そのテーマについて詳しいやつが話を聞かせるだけだ」


「要するにそのテーマについて話したり質問したりしてるってわけ。気軽に考えて」


 どうやら、緩めの部活動のようだ。その方が俺には合っている。


「あ、でも真面目にもやってるからね!」


 春月先輩が言い、タブレットを操作してなにやら写真を出してくる。


「これ、去年の文化祭の様子よ」


 そこには大きな模型の写真があった。ミニチュアの山々や谷があって、その上に大砲や兵士のフィギュアが置かれていて戦場を表している。いわゆるジオラマってやつだ。俺はこの地形に見覚えがあった。


「これは……田原坂たばるざかですか?」


 熊本にある西南戦争の激戦地だ。


「よく分かったな。うちの学校は熊本城のそばだし、歴史研究のテーマと言えばやっぱり西南戦争だ。そのジオラマを作ったりしてるぞ」


「なるほど。いろいろやってるんですね」


「部員みんなで熊本城を見学したりもするわよ」


「楽しそうですね」


「楽しいよ。どう? 入る気になった?」


「はい……でも、部員ってこれだけですか?」


「うっ……」


 春月先輩は痛いところを突かれたようだ。


「あと一人居るけど、そいつを入れて三人だけね」


「そうですか」


 となると俺を入れても4人か。少ないが、その方が気楽に活動できそうだな。


「入部を前向きに検討したいです」


「よかった……一年生が入らないと部の存続が危ういし。あ、誰か他の一年生も誘ってくれると嬉しいなあ」


 他の一年生。そう言われて浮かんだのは有栖だったが、いろいろな意味で難しい。後は二宮ぐらいか。


「はい、誘ってみます」


「ありがとう!」


 その後はさまざまな本やサイトを見せられた。一時間ぐらいで俺は部室を出た。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る