転生したら自分史上最高のモテ期が来たが、全員男だなんて聞いてない
皆未 智生
第1話 異世界へ
「うっ……、ん?」
痛む頭を振り、目覚めた洸哉は辺りを見廻す。
空は明るく眩しい太陽が辺りを照らしている。背の高い木が作る木陰にいたが、紺色のスクラブの上下に白いスニーカーという仕事着のままでも寒くはなかった。
「どこだ?ここ」
キャンプに行きテントで目覚めることならあっても、目覚めたら屋外だなんて初めての出来事だ。まだ夢から覚めていないのかと、寝ぼけた頭で考える。
洸哉が横になっていたのは舗装されていない道端で、直接横たわっていた地面から身体を起こす。
地方都市とはいえ都会での生活しかしたことのない洸哉には、耳慣れた喧騒がないことに違和感しか感じない。
聞こえるのは木の葉が風にそよぐ音だけで、見渡す限り高い建物どころか家もない。電柱さえないのだ。寝ていた道は畦道のようでも、田んぼや畑はなく、両脇は草木が生い茂っていた。
見たこともない風景だが、その道の端で横になっていたらしい。
いつからここで寝ていたんだろう。
もし寝ている間に車が通ったなら、倒れていると勘違いされて、目覚めるより先に起こされていただろう。腕に付いた小石や砂をほろい、その跡がそれ程付いていないことに首を傾げる。
今ある昨日の記憶をゆっくりと辿ってみた。
昨日は日勤で仕事だったが、仕事を終え退勤した記憶がなかった。
だいたい退勤時には私服に着替える。そうだ俺仕事中だったんだ。
少しずつ頭も働いてきて、真っ先に思い出すのは、いつものようにお局の浜村さんからの叱責だった。
「田中さんの点滴確認したの?まだ?ホントとろいんだから。さっきから重田のおばあちゃんのナースコールも鳴りっぱなしじゃない。早く行ってきて」
自分はパソコン前にどっしりと座って、打ち込みをするお局の浜村さんからそう言われた俺は、重田さんの病室に後で来るからと声を掛け、慌てて田中さんの点滴を見に病室に向かったんだっけ。
ワゴンに交換した点滴を乗せ、重田さんのところで食事が不味いとの愚痴を宥め、詰所に戻ろうと廊下を早足で歩いていた時、何げなく談話室の窓から、非常階段が目に入った。
この街の2次救急を担う勤務先では、患者の憩う高いフェンスのある屋上と、普段から施錠され、立ち入り禁止となっているフェンスのない屋上がある。
後者の屋上に続く非常階段で、何が目を引いたんだろうと、階段を凝視する。
すると螺旋の影になっていた側から薄緑色の患者衣が現れ、階上へ上がる人影が見えた。
病気を苦にする人がいることを、職業柄よく知っている。目の前の詰め所にいる浜村さんの背中に声を掛け、走って非常階段に向かった。
「ここは立ち入り禁止なんですよ。お部屋に戻りましょう」
結局、俺のいたフロアからは非常階段に入れず、警備室に急いだものの、非常階段にいた患者に追いついたのは屋上だった。
「近づかないで!近づいたら飛び降りるから」
テレビドラマで聞いたことのあるセリフを言い泣き叫んでいるのは、まだ高校生くらいの女の子だった。
屋上の際近くに立ち、こちらを牽制している。
こういう時の対処法は看護学校で習ったはずだが、思い出せるのは刺激をせずに話を聞くことだけだった。
1時間程の膠着状態が続いていたが、徐々に彼女が泣きながらも話しを聞いてくれるようになり、俺は半歩ずつ彼女へ近づいていた。
もう少し。その場にいた俺と、俺の後ろにいた見守る病院関係者の誰もがそう思っていたその時、まさかの強い突風が吹く。
彼女の患者衣と長い髪が揺れ、何もない空間に引っ張られるように彼女のサンダル履きの足が動いた。
身体が自然に動いていた。あと数歩の所にあった腕を掴み、屋上の内側へ引っ張る。
何故か自分の身体が、反動で屋上の外側へ投げ出されるのを、スローモーションのように感じていた。それを不思議に思う自分がいる。
そこで記憶が途切れていた。
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