第26話 同乗
翌朝、時間通り迎えにきたパドウと共に、洸哉は馬車に揺られていた。
昨日夕方の診察で王様の突然の命令を受けた後、戻った団室にパドウが出発時間を知らせに来てくれた。
だがパドウは忙しなくそれだけ言うと、さっさと治療団室から出て行ってしまう。結局俺は聞きたいことを質問できず終いだった。
治療師全員が揃ったタイミングで、王様からの命令を知らない治療師にも、事情を説明した後がまた大変だった。
「納得いかない。聞いてくる」
同じ治療院のよしみか、代表の自分が同行するべきと思ったのかはわからないが、ローデンがパドウを探しに出て行く。
暫くして戻ったローデンは肩を落としていた。
「最近、国境付近で問題が起きているらしい。
明日は王様と近衛兵の部隊が、国境に近い辺境伯の領地に視察に行くのに、今晩、側近のパドウは多忙を極めているようだ。とても時間を取ってもらうことは出来なかった」
急いでいた兵の1人を捕まえ聞いたのだと、悔しそうに言うローデンに、これ以上迷惑はかけられなかった。
「ローデンありがとう。手間をかけさせて申し訳ない。取り敢えず明日はパドウが迎えに来てくれるから、どこに行くのか、どこまで何ができるかもわからないけど、行ってくるよ。メイリーン様の診療は頼んだね」
悲壮感溢れる俺を不憫に思ったのか、ローデンは未だかつてない、何とも言えない顔をしていた。
そして、今日。
俺は昨日よりも更に困り果てている。
パドウと共に乗る馬車は、何と王様専用の馬車だったのだ。
向かい合わせの座席には、長い脚を無造作に組み、王宮にいる時の貴族服よりも動きやすそうな、騎士を豪華にしたような服装をした、若き精悍な国王陛下が座っていらした。
スラリとした長身に白い気品溢れる騎士服と豪華な緋色のマントが映え、片手に持つ書類を目で追う姿も凛々しい。
パドウの手にも書類が握られ、俺にはわからない部隊編成の話しや、この世界に来て何度か聞いたことのある地名、国名を話題に、王様と質疑応答を繰り返されていた。
当然俺は話には参加できず、聞きたいことも聞けないまま、借りてきた猫のように大人しく座っているだけだ。
乗り慣れない馬車はとても揺れ、話の邪魔をしないように、ぶつからないようにと、気を遣って必死だった。
「到着だ。コーヤ降りるぞ」
パドウに肩を叩かれる頃には、疲労困憊し、体も強張り痛い。
「何だ。治療師は体力がないな」
王様がこちらを見て笑う姿に、ジト目で返すくらい心も荒んでしまっている。
「しょうがないですね。私の後をついてくるように。離れないで下さいよ」
俺は、パドウの後を、ただ着いて歩く任務を仰せつかる。
歩くうちに身体もほぐれ頭も働くようになり、周囲を見る余裕もできてきた。
王様のすぐ後ろに側近のパドウ、その後ろを歩いているが、周りには更に数名の側近が控えている。また更にその一団の前後左右を守る近衛兵が警戒する、物々しい隊列だった。
馬車が止まった辺りは平らで草もあったが、少し歩いただけで足元は岩だらけ、目前には切り立った山が連なる、見渡す限りの茶色い景色だ。
「ここか、越境して来た者達を捕らえたのは」
「はい。報告書によりますと、この山を東から超えてきたようだとのことです」
パドウが指差す方向には、急な絶壁の岩肌が剥き出しになった高い山しかない。人が超えられるのだろうか。
王様は、日差しを手で遮りながらも山を睨みつけている。まるで今にも山の陰に隠れている敵が飛び出すのを、目で制しているかのようだ。
王様は暫く無言で山を見ていた。
「辺境伯の屋敷に行く」
突然の王様の一声で、来た時と同じように馬車まで戻ることになる。
洸哉は、未だ連れて来られた理由もわからないまま、ピリピリした空気に慄き、静かにパドウについて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます