第14話 到着早々
廊下に出ると、ローデンの部屋とは反対側の隣の部屋から、若い男が出てきたところだった。
男は、歳こそ違うが治療院の同僚、アッシュによく似た、顔も体も丸い親しみを感じる風貌をしていた。
洸哉が着用する服と似た、生成りのチュニックに色違いのパンツ、いわゆる庶民服が目に入る。
王宮に庶民が働いていないわけではないが、洸哉やローデンと同じ一画に部屋を持っているのは、今回呼ばれた治療師なのではないか。
洸哉が一瞬でそう考えた時、相手も同じことを思ったようだ。
物おじしない性格のようで、話しかけてくる。
「こんにちは。王都の東にある治療院から来たマコーミックです。そちらは……?」
「あっ王都中央で治療師をしているコーヤです。この度は、よろしくお願いします」
洸哉も相手の自己紹介と同じ内容で返すが、まるでお見合いのようだ。
「この後、顔合わせがあるそうですね。同僚と行くのでまた後ほど。その時同僚も紹介しますね」
丸くて愛想の良いマコーミックは、頭を下げて、廊下を挟んだ向かいの部屋に向かうと扉をノックする。
洸哉も、ローデンの部屋に向かい、ノックをした。
ローデンがドアを開けて、やっと気まずさを思い出す。
だがまだマコーミックがいる廊下で先程の続きをするわけにもいかず、無理矢理部屋に入れてもらった。
ローデンは、案内された部屋で途方に暮れる。
またやってしまった。
何故俺は、コーヤの前に出るとこうもうまく喋れなくなるんだろう。
昨日モンデプスから、王宮からの依頼や経緯についての説明を受けた時、一緒に王宮に向かうもう1人がコーヤだと知らされた。
そして、今回の依頼がどんなに重要なのかと、仕事にだけ集中するようにと言い渡された。
注意を受け、その後は気持ちを切り替えて教えを受けたが、いったい俺はどんな顔をしていたんだろうと恥ずかしくなる。
昨夜は、ベッドに入った後も、何回も目が覚めてしまい眠れなかった。
そして今日、初めての馬車にはしゃぐコーヤに、また心にもない事を言って傷つけてしまった。
モンデプスや治療院の仲間がいない環境で、これから2人で協力して治療に当たらなければならないのに、関係を悪化させてどうする。
直ぐにコーヤには謝ったが、下を向いて泣くのを耐えていたようだった。
そしてその後も俺はまた間違えた。
コーヤはこの世界に来てたった3年ちょっとの異世界人だ。養成院を出た子爵家出身の俺とは、王宮に行く意味が違うだろう。
不安に思うことは当たり前だ。優しく励ますべきだったのに、寄り添いもせずに怒鳴るなんて。
コーヤが、王宮に行きたくなかったというようなことを言った時、自分の感情が抑えられなかった。
おかしい。何故、あんなに自分の気持ちが昂ったのかわからない。
ローデンは与えられた部屋で、ただただ己のコーヤへの言動に深く後悔していた。
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