第13話 王宮の私室

 馬車が止まり、御者によって扉が開かれる。

「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

 馬車から降りると、到着を待っていたらしい男について王宮に足を踏み入れる。

 案内してくれたのはパドウという男だった。

 貴族の装いをしたパドウは、道すがら、そつなく王宮での生活に当面必要な知識や注意点を教えてくれ、複雑な曲がり角の多い廊下を迷うことなく進む。

 ついて歩くだけで精一杯な俺と違い、ローデンは時折質問を挟みながら、難なくパドウのすぐ横を歩いている。

 こうして見ると、いつもと違い上等な衣装を身に纏い、ブラウンヘアを靡かせて、颯爽と王宮の廊下を歩くローデンは、年下と思えぬほど様になっている。

 考えごとをしながらも無心に足を動かしていたら、パドウが歩みを緩めた。目的地が近いのかもしれない。

 パドウが周囲に視線を飛ばして声を落とす。

「ひとつ大事な忠告があります」

 とうとう立ち止まったパドウは、俺とローデンに近づき2人の目を交互に見ながら、言い聞かせるように話し出す。

「貴方がたは、王帝陛下が溺愛される王妹メイリーン様に近づくことのできる貴重な資格をお持ちになります。

 王宮にいる間、貴方がたを利用しようと貴卑問わず接触してくるものも多いでしょう。どうか惑わされませんよう、ご自身のためにもご注意下さい」

「それはどういう……」

 ただ黙って意味を考える俺と違い、ローデンが果敢を尋ねる。

「陛下はメイリーン様のことになると、容赦されません。もちろんメイリーン様への必要以上の接触もお控え下さい。陛下の逆鱗に触れぬように」

 

 診療のために王宮に呼ばれた俺たちには、それぞれ1室ずつ部屋が用意されていた。

 一旦立ち止まった後も再び歩き出したパドウに付いて、王宮の迷路のような廊下を歩いた。

 やっと辿り着いた部屋は、流石に王宮だけあり、こぢんまりしていても、ベッドや小さい机が据え付けられていて、使用人の部屋といえど暮らし心地が良さそうだ。

 ローデンとは隣同士の部屋だったが、馬車での最後の会話が尾を引き、案内される間もギクシャクしたまま、それぞれの部屋に荷物を置きに入る。

 前世勤務していた病院には案内板や地図があったけど、王宮にそんな物ありっこないだろう。

 この部屋が王宮のどの位置にあるのか、さっぱりわからない洸哉には、ローデンだけが頼みの綱だ。

 さっきは怒らせてしまったけど、荷物を置いたらローデンの部屋に行って、誤解を解かねば。

 決して俺はやる気がないわけではない。

 だが、自信がなくて愚痴ってしまったのも事実だった。

 ローデンの言う通り、ここまで来たんだからやるしかない。

 洸哉は気持ちを奮い起こすと、顔をしっかり上げて、隣の部屋を尋ねるために廊下に出た。

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