第4話 食卓
「ふぁーあ」
大きな欠伸をしてテーブルに切ったパンと残り野菜のスープを並べる。
昨夜はベッドに入ってからも、勉強の気晴らしにと読み始めた、治癒術を含む魔術や魔法について書かれた本を夢中で読んでいたら、空が明かるくなりかけていた。
慌てて少し眠り、いつもより少し寝過ごしてしまったが、治療院のすぐ横にあるモンデプスの家に住まわせてもらっているおかげで、時間には余裕がある。
モンデプス自身は、少し離れた所にある薬草畑の横にある家に住んでいる。実験に便利だともともと大半を寝泊まりしていたことから、手狭なこの家に洸哉を住まわせてくれていた。
右も左もわからない異世界で、住む家から仕事まで世話になるモンデプスに出会えたことは奇跡のようだ。いつかモンデプスには恩返しがしたいな。
食事の準備を流れ作業のようにしていたその時玄関からノックの音と、外から俺を呼ぶエリックの、幼さを感じさせる少し高めの声が聞こえてきた。
「おはよう。コーヤ、起きてる?」
「おはよう、エリック。どうした?こんな朝から」
急患じゃなきゃいいなと思いながら、玄関に向かい扉を開けながら声をかける。
若者らしい余分な肉のない、それでいて快活に駆け回ることでできた実用的な筋肉が程よく付いた、しなやかな四肢と背筋を伸ばしてエリックが戸口に立っていた。
「朝1番で採れた卵を持ってきた」
エリックがグイっと小さな籠を持つ手を前に出す。
手元の籠からは立派な卵が入っているのが見えた。
「ありがとう。エリックは朝ご飯は食べた?まだなら、残り物だけどスープがあるよ」
「おっ、コーヤのスープ美味いんだよな。朝飯抜いてきた甲斐があった。お邪魔します」
エリックは、ニカっと白い歯の笑顔を見せると、勝手知ったる家に入り、迷わずテーブルの、洸哉の食べかけの朝食がセットされた横の席に着く。
エリックは1人っ子だったため、両親を亡くした現在は1人で暮らしている。祖父母もとうにいない。
誰かと一緒に食事したいと思うこともあるだろうと、訪れた時はなるべくご飯に誘っている。
ちゃんと食べているのか心配だったが、背だけはスクスク伸びている。
初めて会った時は俺より遥かに小さかったのに、今では170㎝の自分に迫る勢いだ。
それでもティーンエイジャーが1人で孤独に耐えているかと思うと、いつかまた家族ができるまでは力になれたらと願う。
洸哉は、切ったパンと温めたスープの他に、採れたての卵を手早く焼き、エリックの前に置く。
「たくさん食べろよ。おかわりもあるぞ」
「コーヤの方が食べた方がいいんじゃない?何この細さ。よくそれで治療師やってるね」
隣に座り、スプーンを持った手の横に自分の腕を並べ、勝手に太さを比べている。
くぅっ。悔しいので、さりげなく腕を引いた。
「俺はいいの。今は治癒術を習ってるところだから、細くなったのかもね」
言い訳にもならないことを、さも当然のように言い、ちぎったパンを口に入れる。
「エリック食べないなら、食べちゃうよ。腕も太くしなきゃだからね」
「コーヤはそのままでいいよ、やっぱり。俺が代わりに大きくなるから」
エリックが、ガツガツと食べ始めたのを見て、微笑ましい気持ちになる。
「よしよし、大きくなれよ」
満面の笑みで食べ盛りの食いっぷりに見惚れていると、エリックは嫌〜な顔をこちらに向けてから、食事を再開しだした。
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