第3話 モンデプス院長

 院長のモンデプスは優秀な治療師だ。

 年齢は不詳だが、白い鬚を蓄えたお爺さん先生だ。

 薬草の造詣が深く、治癒の魔法を併用することもある。現在は後継を育てると言い、前線には立っていない。

 そして何より、ホスピタリティに溢れていた。前世で看護学校で叩き込まれた俺が言うんだから、間違いない。

 院長は、前世を思い出し道端で途方に暮れていた俺が、発見したエリックに連れられて治療院に来た時、俺の話しを根気良く聞き、心細さを一瞬で見極め、出来る事を尋ねてくれた。

 異世界転生だなんて突飛な話だったにも関わらずだ。

 おかげで、医療知識があるならと、院長をするこの治療院で働かせてもらうことができた。

 俺は医者じゃなかったし、医者の助手みたいなものだと説明したが、こちらの世界では医師国家試験のようなものはないらしい。

 貴族や一芸に秀でた庶民も通う学院を卒業した後は、適性のある者が実地で学びながら治療師になるとのことだった。

 そして治療院は教会の出張所のようなものだと説明された。

 そうしてモンデプス院長に連れて来られた今の家には、魔法によって井戸から引く水道が出せ、明かりが灯り、料理や暖房のための火が点けられるのを目の当たりにする。

 もちろん俺はそれまで、魔法なんて漫画やゲームでしか見たことがない。それを言うなら異世界転生もだけど。

 俺は、夢でも見ているのかと思ったし、科学の発達した時代を生きてきた現代っ子だったから、絶望もした。

 モンデプス院長は、小さな魔法を使う度に一々驚き、子供のようにはしゃいで感嘆の声を上げ、そのうち黙ってしまった俺に驚いていたみたいだ。

 さすがに1人でこの家に置いておけないと思ってくれたようで、数日一緒に寝泊まりして魔法の使い方を優しく伝授してくれた。

 幸い俺には、ある程度の魔力と素養があったようで、最低限のレクチャーと修得を確認できるやいなや、院長は薬草畑が心配だと自宅に戻ってしまったが。

 それからは、一通り揃ったこの家で1人暮らしをさせてもらっている。

 生活用品だけでなく、溢れんばかりの蔵書もあるので、学ぶのには最適な環境を与えられた。

 前の世界のことを考え込む夜もあるが、最後を思い出すのが怖いのと、考えてもどうしようもないのでやめた。

 魔法関係だけでなく、言語と識字能力にはチートが働き、字も書けた。

 俺は勉強が嫌いじゃない。

 前世での職業選択も自分の意志で決め、人の役に立ちたくて看護師になった。

 だから、死に物狂いで薬草や調薬について勉強し、3年があっという間に経った。

 今では、ペーペーと言えども立派な治療師だ。

 治療院で毎日治療し、薬草から薬を作る。

 モンデプス院長に治癒魔法まで習い始めると、俺は筋が良いと褒められるまでになった。

 充実した毎日を過ごし、この幸せがずっと続くと思っていた。

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