第9話 妹姫
「お兄様……あっ国王陛下」
王の私を兄と呼ぶ、豊かな金色の髪に、ドレスとお揃いの淡いブルーリボンを付けた少女が庭の椅子から立ち上がり、貴族の礼をする。
色白な肌にペリドットの瞳を母から譲り受け、可愛がられて育ったものだから、世間知らずのお姫様だ。
「やあ。メイリーン。今日は庭に出られたんだね。体調が良いのかい」
「はい。今日は熱も息苦しさもないんです。部屋の中にばかりいたら息が詰まってしまいますわ」
「医師から許可は出たんだろうね。勝手に抜け出したのなら、私でも叱らないとならないよ」
「ちゃんと許可はいただきましたわ」
ぷぅと膨れる頬も愛らしい。
幼少期より身体の弱い妹は、原因もわからぬまま時折熱を出す。伏せることも多く食も細いため、いつまでも少女のようだが今年22歳のれっきとしたレディだ。
既に婚姻してもおかしくない年頃なのに、体調のせいで籠の鳥を余儀なくされる妹が不憫だった。
「良い子にしていたのなら褒美をやらないとな」
着用しているロングコートとジレの間に手を入れ、細かい模様が彫り込まれた小箱を取り出す。
「まあ、美しい模様……開けてもよろしくて?」
頷くと、両手で受け取り、そっと箱を開ける。
突如ワルツの調べが奏でられ、可愛らしい瞳に驚きが溢れる。
中身ではなく、箱自体が贈り物だった。
蓋を開けると音楽が流れる仕組みだと説明するが、ウットリと音を堪能しており、私の声は聞こえていないだろう。
当日になって突然出席できない事も多い、舞踏会に思いを馳せているのだろうか。
妹姫の喜ぶ顔を見つめ、父王と妃であった母亡き今、助けてやれるのは私しかいないと、心に刻み込んだ。
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