第10話 晩餐
王宮からの使者と院長は、治療院の奥にある院長室という名の、書庫や倉庫とも呼ばれる部屋からしばらく出て来なかった。
お茶を出したセリラージによると、院長は昔、王宮の医師をしていたことがあり、使者はその頃の知り合いでもあるらしい。
積もる話でもあるのだろうと気にも留めていなかった。
洸哉とローデンが治療院に戻った途端、急患が運ばれてきたこともあり、使者が帰ったことにも気づかなかった。
治療院の仕事を終え、皆んなが帰り支度をしている時、モンデプス院長がローデンを呼ぶ。
院長が今度はローデンと別室に籠った。
「何かあったのかな」
セリラージに尋ねてみたが、彼もまた何も知らないと言う。
「今日の仕事が終わったら皆帰ろうか。何かあれば明日説明があるだろう」
帰宅し、いつものように夕飯の準備をしていた時だった。
「洸哉、今いいかい」
ノックと共に、院長がやって来た。珍しい。
ローデンと込み入った話をしている間に帰宅したが、別れてからもさほど経っていない。
「どうしました?急患ですか」
院長が患者から離れる訳もないのに、院長がこの家に来る理由で思い付くことは急患くらいだった。
「美味そうな匂いだ。シチューかな」
のんびりとした院長の声は、ピリピリした気持ちをいつも和らげてくれる。
「牛の乳を貰ったので。肉も入ってて栄養満点だよ。一緒に食べませんか」
「食べながら話をしようか」
そうして、院長と2人、向かい合わせでシチューとパン、チーズののった温野菜といった食卓を囲む。
「洸哉は料理上手だな。少しの間一緒に暮らした時も、毎日美味しい思いをしたよ」
当時を思い出したのか、食べた料理名が次々に出てきた。
専門学校から1人暮らしで、節約のために覚えた料理は、この世界でも役に立っている。
「喜んでもらえて良かった。今晩も沢山食べてほしい」
1日労働して空腹だったこともあり、休みなくスプーンを動かし、多めに作ったが2人であらかた平らげる。
歳を取ってもよく食べる人は元気だ。
テーブルを片付けお茶を出すと、モンデプスが話し始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます